第77話  新居

 綾はミニマリストというわけではないが、ボロアパートの四畳半の部屋に置けるものは限られてるので、引っ越しするのは容易だった。軽トラを陽子さんから借りて、裕子と一緒に新しい住処に運び込んだが、生活圏は全く変わらないほんのちょっとの距離の移動だからただ単に居住空間が広くなったという感覚。


 「わー!広いねー!これならレトロゲーム機の筐体買ってゲーセン作れそう」


 裕子の趣味全開の第一声に綾は苦笑いしたが、ちょっと変わった作りの家で、土間というよりもコンクリートで屋内ガレージになってる部分が半分を占めていて残りの居住空間が半分。それでも綾が借りていたアパートの居住空間より広い。天井も心なしか高めで、工場をリフォームしたそんな感じの作りだった。世の車乗りやオートバイ乗りなら真っ先に飛びつきたくなるような間取りで、居住空間から愛車を眺めることができるそんな作りだ。


 引っ越しといっても裕子は登山バッグに入る程度の荷物のみだし、綾は四畳半に収まる程度の荷物なのであっという間に引っ越しは終わってしまった。


 「とりあえず、コーヒーでも飲みましょう。」


 綾がお湯を沸かしてインスタントコーヒーを入れる。裕子と二人で居住空間と屋内ガレージの縁に座って、オートバイを眺めていた。NSRとVFR。令和の今ならレトロバイクで有りながら高性能のオートバイで今どきの普通自動二輪では奢られていないアルミフレームが燦燦と輝いている。引っ越しが終わった直後くらいからしとしとと雨が降ってきたが屋内ガレージは眺めることをまだ許してくれる。二人はひたすらこの2台のオートバイを眺めながらこれから先、二人でどこに行くかを相談していた。そう、次のツーリングはまた昭和63年になると思うので、それなら当時のオートバイ雑誌を古本屋で入手して人が集まる峠を走ってみようと怖いもの見たさな好奇心で調べることにしたが、これからはオートバイ乗りにとっては憂鬱な梅雨の時期だ。オートバイしか興味がない人たちにとってはこの時期は本当に地獄と言える。裕子はゲームが好きなのでこの苦々しい時期はゲームセンター巡りをするらしいが、綾はどうかというと今までオートバイで過去に遡った経験してきた街を今一度歴史的に追いかけてみたい。と綾らしい時間の潰し方だと思う。


 二人は生活は共にしているが、綾は大学生活とアルバイトがあるので、家事全般は裕子がやるという分担になったがそれも半年ちょっとくらいまでの期限付きなのでこの生活を大事にして行こうとしとしとと降る雨音を聞きながら新居の初日を終えた。

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