第76話 NSRとVFR

 裕子の居場所を確保するためにも早急に引っ越しという話になって所々どうすればいいか陽子さんから説明があってその通りに動けば問題なく引っ越せそうな算段が立ったのでさぁ帰ろう。というところでVTZ250がまたもや不調になってしまった。これは前回と同じことが起きてるのだろうと思ったがそうでもなかったようで、またもや入院だ。陽子さんはまた奥の倉庫に行ってオートバイを2台持ってきた。NSR250RとVFR400Rだった。どちらも1988年製なのでVFR400RといってもNC30ではなくNC24と言われる公道車初の片持ちスイングアームのVFRだ。NSRはいわゆるレプリカ塗装された青いオートバイで、VFRはトリコロールカラーだったがどことなくRC30っぽいカラーパターンだ。


 「とりあえず、これに乗って見て。」


 陽子さんから託されたオートバイは全く同年代というあたりで二人でツーリングしてこい。と言ってるようなものだった。


 早速、エンジンに火を入れてみた。綾はNSRを動かそうとしてセルを探し始めるが無い。よく見るとキックペダルがあった。そのままキックしてみると掛かるようで掛からない。陽子さんがにやにやしながら見ていたのでムキになってさらにキックしていくとすっかり掛かるそぶりも無くなってしまった。どうやら、エンジンを掛けるのにコツがいるようだ。今どきのオートバイはセルスタートが当たり前なので乗ったこともないキックペダル始動のオートバイでエンジンを掛けるのが如何に難しいかが分かった。


 一方、裕子はVFRだったのでセルスタートですぐにエンジンが掛かったが綾のエンジン始動不能の有様を眺めていたが、さすがにそれは酷だろう。と見かねて綾から裕子にバトンタッチした。


 「綾ちゃん、2stエンジンの掛け方はむやみにキックしてもエンジンが暖まってないとそう簡単に掛からないのよ。ちょっと見ててね。」



 そういえば、裕子は2stエンジンのRZ250に乗っていたのでキックスタートには慣れていたことを思い出す。裕子はまず左側のメインフレームにあるレバーのようなものを引いてから、軽くキックでクランキングしてそれから一気にキックした。白い煙が少し出て一発では掛からないが、数度キックしたところでものすごい音と白煙が出てエンジンが始動した。


 「最初の始動の時はチョークレバーを引いて念のためにクランクを上死点にして、それからキックをためらわずすることが大事なの。」


 アクセルを捻ればいいのかと思いきやアクセルはほとんど触れないでチョークによってエンジン回転数が高めのままエンジンが回っている。しばらく後にチョークレバーを戻してアイドルが安定してきたところでようやくアクセルを煽るとさらに白煙がもうもうとなったが、やがて白煙も出なくなった。


 「あたしにはNSRは無理そうなので、裕子さんがそっちに乗って。」


 綾は見てて始動方法のコツもわからなさそうなのでまずはVFRに乗って自宅まで戻るのが賢明であるとそそくさとVFRに跨った。


 裕子は嬉しそうにNSRを眺めながらにたついていた。そういえば、新潟にいた5年間は全くオートバイに乗っていなかったのだからそれはそう。と、綾は納得しつつも、裕子が無類の2st好きなのかもしれないとも思った。


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