第71話 信濃川
お腹も満腹になったので走る気力も復活した。綾は長野経由で帰ろうと裕子に提案した。裕子は先にも言った通り綾の好きなように走ってほしいので素早く頷いてVTZ250を止めているところへと向かった。初夏のじわっとした暑さと照り返す日差しとお腹の中のラーメンで汗が吹き出しそうで、早く走り出したい。
宮内を過ぎると信濃川はそれまでは平野の中を巨竜が横たわったように揺蕩う流れを見せていたが、小千谷に向かい始めると山が急激に近くなったように感じられる。新潟平野の末端だ。一面田んぼだった景色も右側には迫る信濃川、左は迫る山といった感じでいわゆるノドになった場所を抜けて小千谷の市街地に着く。小千谷のあたりは令和のグーグルマップと昭和63年の現道では全く異なっている。国道17号線は山岳を貫いたバイパスと高速コーナーを実現するために緩やかなカーブを描き信濃川を跨いでいわゆるノドを避けて通ったりしている。一番綾が困るのはありそうでない橋だ。小千谷市街から信濃川沿いを走る国道117号線は小千谷駅前から伸びている道路に掛かった橋のみだった。令和の地図だと3桁国道があちこち交差してて国道を頼りに走るとわけがわからなくなるがこの時代は地図上で見ると今よりもわかりやすいがとにかく道は狭かった。
国道117号線に入ると流れも道もスムーズになった。鉄道的に言うと飯山線沿線となる。一度渡った信濃川だが、もう一度渡るころには大河だった信濃川もすっかり山岳の川といった面持ちになっていた。
いよいよ山岳路!と綾も意気込んでいたが新潟県最後の津南町に入るまでは結局普通の街中の道路といった感じで山深さをほとんど感じることなく、そして直線的な快走路だったが、津南町に入った途端道は狭くなり、いかにも旧道というルートをいくつか越えさせられる。令和の現道で掛かってる橋が昭和63年にはまだ出来てないようだ。やがて、津南町の最西端まで来ると架橋されたばかりの宮野原橋に信濃川と書かれていたが、ここを渡ると長野県、そして信濃川は千曲川と名前を変える。令和だとここで道の駅があって休憩できるのだが、昭和には道の駅という概念が無いので森宮野原駅前まで行って休憩することにした。
「山の中なのに暑い~。」
綾は予想以上に見た目の景色や日本有数の豪雪地帯という触れ込みに対して相反する暑さにちょっと辟易した。ちなみにこの辺りは標高で言うと300mも満たない信濃川流域では下流域と言ってもいい中流域だ。駅前の自動販売機で喉を潤しながら、裕子を見ると裕子はポケットからスマホを取り出して涼しい顔をしてゲームをしていた。裕子は暑さに強いのだろうか。そういえば背中に登山バッグを背負ってるのに疲れを感じさせない。綾は自分の体力の無さにちょっと自己嫌悪してしまった。
長野市街まであとどれくらいなのか?旧道経由がどのくらいあるのか?をそれとなくネットで調べてみるがこれといったいい情報は見当たらなかったが、想像以上に長野県に入ると旧道ルートの割合が一気に高そうだ。長野県の道路は長野オリンピックで新道に付け替えが一気に進んだのでそれまでの国道はかなりの割合で旧道が現道なのは想像に難くは無かったし、新潟県の道路事情が長野県よりも早い段階で進んでいたのは田中角栄のおかげだろう。
休憩を終えて裕子を載せて走り出すと、栄大橋はもう出来ていたが横倉トンネルはやはりできてなく旧道を結構通らないと長野市街にはたどり着けない予感は当たった。左にはかなりやせ細った信濃川改め千曲川が太陽に照らされて爽やかにキラキラと光っていて綾は暑さのあまりに飛び込みたくなる衝動を感じるのだった。
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