第70話 ラーメンと寄り道

 田圃の緑と青空の青のコントラストが眩しい国道を走り続けたが思ったほど進まない。高速とは段違いに進みが悪い。綾の後ろには登山バッグを背負った裕子が乗っている。インカムで会話しながら走ってるので飽きることは無いが、時計の進みが思ったよりも早いようだ。


 長岡を過ぎたあたりで11時になってしまった。このままこのペースで国道8号から17号線を走って関東平野に出るころには夕方になってしまいそうだ。こうなると翌日のアルバイトが辛くなりそうだし、なにより今回の旅は陽子さんからお金が出てるのでこうなったら最後まで楽しんで帰ろう。と前回の沼津の帰りのような地獄を見たくないので宮内まで来たところで昼食を摂りながら、会社に休むことをメールすることにした。


 「綾ちゃん、お昼はラーメンでいいよね?!」


 綾は構わないという返事をして、路肩にVTZ250を止めてグーグルマップを二人で見る。この辺りは激変してるわけでもないので、ほぼ令和の道路と変わらない道路事情になってるのでわかりやすい。宮内駅前にある長岡生姜醤油ラーメン屋だ。綾も店名を見て、聞き覚えがあったのは令和5年には秋葉原に分店を設けている店だったからだ。食べに行ったことはないがきっとおいしいはず。裕子は休日に電車で行ける範囲で新潟グルメや観光を楽しんでいたようでその中で見つけた店舗の一つらしい。


 「裕子さん、このお店知ってる!秋葉原にもあるよ!写真見てもベーシックな感じでおいしそう」


 国鉄宮内駅は上越線と信越本線の分岐点でもあるが駅前は何もないが、新潟特有の雁木のある商店街が駅前にあって、地下水で融雪する消雪パイプが備わった道路なので茶色いのがなんとも新潟らしい感じを漂わせているが、このラーメン屋だけに人がぽつぽつ並んでいた。初夏なので待ってる間にもじりじりと照り返しと蒸し暑さを感じる季節だ。


 待つこと10分程度で店内に入れた。令和の今ならきっともっと待つことになるのかなぁ?と綾は思いながら、注文したラーメンを待つ間、裕子とこの先の帰り道について話し合う。


 「裕子さん、このまま国道17号線を走って帰るとしても夕方の混む時間帯に帰ることになるので、寄り道して1泊してもいいですか?」



 「あたしは帰れればいいし、宿泊費くらいはあたしが出すから綾ちゃんの好きなように走って。」


 裕子の了承も得たので、スマホを人に見られないように机の下でメールを打って会社を休むことにした。休むと決め込むと人はなんだか自由を得て何でもできるような気がする。仕事が趣味の人にはわからないかもしれないが、仕事と遊びは別腹の人には束の間の自由のエクストラタイムはこれ以上ない至福だと思う。


 待望のラーメンは濃い目の醤油らしい濃い色のスープにのりとチャーシュー、なるととほうれん草、めんまが乗ったラーメンだった。生姜醤油のラーメンは令和の昨今ではなかなか食べることができない逸品だが生姜の風味と醤油のコラボはやはり伝統的な醤油ラーメンの王様だと改めて綾は噛みしめながら食した。令和に戻ったら秋葉原の分店にも行こうと決めた。裕子は定期的に通ってるので、いつものチャーシュー麺をもくもくと食べていた。今日の行程は寄り道したと決めたからにはチャーシュー麺にしておけばよかったかな?と綾は少し後悔した。


 

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