第67話 居心地のいい世界との別れ

 年齢の話は計算するとややこしいので裕子に聞いた。令和6年で裕子は20歳なので確かに綾の1つ下と言うことになるがよくよく聞いてみると同学年だった。それにしても5年も昭和63年にいたということは昭和58年に飛ばされてその後どうなったのか聞いてみた。


 「RZ250に乗ってキャンプツーリングしていたんだけど、途中で事故っちゃってRZ250は廃車になっちゃって、そこからこの時代に留まっていたのよね。」


 この時代に留まってしまった原因は分かった。それにしても取り残されて不安や悲しみがあったかというとそうでも無くて彼女はゲームマニアでもあったので往年のゲームとゲームセンターのあの熱気から離れられなくなったので留まっていたようだ。戻ることはできないことはないのは事故った時に陽子さんに電話した時にいつでもタイムスリップできる誰かが近い時期に迎えに行けるよう手配は出来る。という話をしていたようだし、スマホの充電は充電器を持っていたから難なくできるので定期的に連絡は取っていたようだ。要するに近い時代のオートバイを用意して新潟に誰かを向かわせれば帰ってこられる。というシステムだ。それが綾だったわけだ。


 それにしても5年は長いようだけど裕子としては居心地がいい時代だったようだがいつかは終わる時が来るのも理解はしていた。それがこの時だったわけだ。


 「綾ちゃん、あたしを後ろに乗せて自宅まで戻ってくれる?」


 綾はもちろん構わないことは伝えた。


 「でも裕子さん、この時代には未練はないの?・・・あ!あたしのバイクが有ればまた来られるのか?!」


 そう、綾のVTZ250に乗ってまた新潟に来れば同じ時代には戻れる。ただし、今の生活環境は手放さなければならないのも事実だ。店長といってもアルバイトに毛が生えたようなものだったので裕子は早速いろんな手続きを早々に始めた。綾は店長室でしばらくコーヒーを飲みながら裕子の用事が終わるまで待つことにした。


 待ってること1時間ほどだったが、当時のテレビを点けて眺めているがどことなく見たような1シーンがあったりコンプライアンスというものやデリカシーというのが欠けたような番組が多いがその分自由さを感じる構成で今のテレビ番組のようなひな壇の内輪トークというものは無く過激なネタでガンガン行く未来での不安の無さを感じる熱量を電波越しに見ていた。


 さすがにテレビも見飽きたのでちょっとゲームセンターをうろうろしていると、先ほど案内してくれた店員と裕子さんが話している。雰囲気的には長い付き合いのようだ。この店員はどうも裕子の事情を知ってるようで、別れの時が来たことを悟ったような顔をしながらどこか寂しそうな笑顔で最後は別れて綾の元に裕子が近寄ってきた。


 「全部終わったので明日には荷物まとめて帰る準備は出来そう。」


 裕子の生活環境は極めて質素にまとめていたようで、事情を知る店員が後は片づけてくれるそうだ。ずっとこの時代にいるということはない。と言うことはちゃんと理解していたようで好きなものや大事なものはこの店長室に全部まとめてあるようだ。


 「ところで綾ちゃん、今日は泊まるところ決まってるの?」



 「はい、近くのビジネスホテルに取ってます。」


 裕子は綾に今日はお酒を飲もうと提案してきた。明日の朝、裕子は新潟を離れる。昭和63年の初夏に別れを告げる祝宴といったところだろう。

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