第66話 玉澤裕子
スタッフの作業部屋をさらに通り越した先にさらにドアがあり、さらに狭い部屋に迎えられた。どうやら店長室らしい。部屋に入ると店長の趣味がよくわかるオートバイの写真や小物系のキャンプ用品などが置いてあり、一目見てすぐにオートバイやアウトドアが好きなのがわかる。コーヒーはインスタントコーヒーではなく、コーヒー豆から作るという手の込んだコーヒーだった。アウトドアやオートバイ好きならよくあることだが、飲んでみるとさらにおいしい。昭和63年だとこういったコーヒーを出してくれるのは喫茶店以外まず外で飲める場所はない。
「おいしいでしょ?このコーヒーは「ゲイシャ」というよ(笑)かなりお高いんだけど。」
裕子の趣味はちょっとマニアックなんだな。というのがわかる片鱗なわけだが、本題がどうもありそうで綾が待ち焦がれた客だったことをうかがわせるがまずは飲んだこともないコーヒーの味に舌鼓を打っていた綾だった。
「はい!なんだろこれ?ジャスミンみたいな香りがまじってるような?」
裕子は得意げに話す。
「これはね、パナマ産のコーヒーなのよ。エチオピア南部にあるゲシャという地域に自生していたことからゲイシャと呼ばれるようになったらしいので日本の芸者とは無関係なんだけど。」
コーヒー自慢が終わりそうもないと思ったら、裕子は綾の手を握って嬉しそうに話し始める。
「綾ちゃんはいつの時代から来たの?陽子さんは元気?!」
そもそも陽子さんからの依頼なのでこの玉澤裕子にも何らかの秘密の鍵があるのはわかっていたが、改めて言われるとびっくりするものだ。綾の中では玉澤裕子は昭和63年の住人だと決めつけていたので陽子さんがその謎だけを秘めてるものだと思っていたからだ。実は玉澤裕子も昭和63年の住人ではないようだが、いったいいつの時代の人間なのだろうか?裕子の問いにまず綾は答えなければならない。
「陽子さんは元気です。あたしは令和5年から来たんです。あ!令和5年は西暦では2023年ですね。」
裕子は逆にびっくりした顔をしたのちに少し考え込み始めてからコーヒーを一口飲んでから言った。
「もしかしたら、あたしのほうが年下かもしれない。あたしは令和6年からここに来たんだけど、ここに5年いるのよ(笑)」
綾は裕子が何を言ってるのかわからなくなってきた。年齢計算と時代計算は単に四則演算でも足し算と引き算だけのはずだが、そもそもタイムスリップ自体が二人同時に別々の行動の果てに今邂逅したわけなので、そういった話は時をかける少女でもあったが、あれはかなり時間軸が離れているのでそんな計算をする必要もなかったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます