第65話 昭和のゲームセンター

  ゴールまであと少しというところで迷ってしまったがようやく目的地に着いた綾。


 「初対面の人と会う時はやっぱりちょっとドキドキしちゃうけど、それ以上に陽子さんの言っていた玉澤裕子さんはこの時代にいるのかが一番の不安というか普通に考えたらいないはずなんだけど。」


 と、考えながらゲームセンターを探していた綾だったが、陽子さんのメモを見ると住所だけではなくゲームセンターの名前もしっかり書かれていたのを思い出した。


 「陽子さんが書き記したゲームセンターの名前は確かに令和には無かったのよね。ということは…。」


 何かが繋がり始めてきた綾だが、グーグルマップのルート案内に導かれて令和には存在しないゲームセンターを目指していたが、昭和63年には確かにゲームセンターがあった。


 駅から程近くにある大手ゲームメーカー系列のゲームセンターに入ると、いわゆる体感ゲームの大型筐体が置いてあり、メダルゲームや競馬ゲームもかなり巨大な筐体で席は土曜日というのもあって満席だ。ゲームセンターというと令和ではもはやマニアの集う場所になりつつあって、一般的な場所にあるゲームセンターは実はプリクラとUFOキャッチャーしか置いてない店も多くなった。対戦ゲームと呼ばれるゲーム筐体はまだなくて、テーブル筐体を覗くとシューティングゲームに人気が集まっていたように感じる。なにやらベラボー!とか叫んでるゲームもあるし、綾にもわかるテトリスも置いてあった。また大型体感ゲームの筐体は席が可動するいわゆる、モーションベースを供えた筐体だ。令和ではまず見ることが無い可動式大型ゲーム筐体を見てむしろ未来を見ているようだった。手軽にモーションベースを楽しめる時代があったのかと感心してしまった。どれも令和のゲームセンターではもはやマニア向けと言えるゲームだろう。とにかくゲームセンターに熱気が溢れており、こうした閉ざされた狭い空間に人がひしめき合ってひたすら電子音と絶叫でいっぱいになってるというシチュエーションは綾にとっては初めての経験だった。


 店員を探し始めると店員もなにやら熱く叫んでいる。どうやらここは新潟県の中でもマニアが集う傾向にあるゲームセンターのようだ。店員に何とか話しかける綾。


 「て、店長さんはいますか?」


 周囲の音があまりにもボリュームが大きいので綾の声もかき消されてしまうようで店員は綾の声掛けに気づいてはいるが何を聞かれてるのかわからないようで耳に手をかざして聞こうとしようとする仕草を見せた。


「えーーーとーーー!店長さん、玉澤さんはいらっしゃいますかぁぁぁ?!!」


 店員は普通に返事をゼスチャーでしてくれて、向こうにいる。と指を差した。綾の身辺をことを聞くこともなくまた店員は大声で歓声に混じりながら何かを叫んでいる。どうやら、神プレイ?をしているプレイヤーがいてハイスコアが今まさに出そうな。そんな状態のようだ。これも後で調べたことだが、綾はゲーマーではないのでそのあたりはピンとは来ないが、ゲーメストなるアーケードゲーム専門の雑誌でハイスコアランキングが掲載されており日本一がその申告で決まるんだからそれはもうゲームセンターの常連客が高揚するのもうなづける気がする。


 奥の方にいるしぐさをして教えてくれたので、さらに奥に歩みを進めるとポニーテールで身長は綾よりも少し高いくらい、ぱっと見だが胸は結構大きそうな女性のスタッフがいた。見た目からすると自分より少し上くらいに見える。見た目が幼い綾だがそれでも20歳は超えているので25歳くらいという意味で少し上。ということだ。


 「えっと、玉澤裕子さんですか?」


 玉澤裕子が振り向くと笑顔でそうです。と答えた。早速陽子さんから預かった手紙を裕子は開封して読み始める。裕子は少し驚いた感じで綾を見つめてまた手紙を読み始める。手紙は思ったよりも枚数が多かったようで、最初のページの半分くらいを読み終わったところで、はっと気づいた感じで綾に声を掛ける。


 「あ、ごめんねー。遠くから来たのに立ちっぱなしにしたままで。こっちにスタッフ控室があるからこっちにおいで。飲み物はコーヒーでいいかな?」


 裕子が綾を奥の部屋に誘う。

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