第62話 魚沼展望台

 寝落ちのように早いうちに寝入ってしまった綾。ピーカンの朝日に照らされて目が覚めた。で今日は新潟駅に向かうのだが、まだ旅の行程は1/4みたいなものだ。新潟県に入ったとはいえ越後湯沢から新潟駅までは東京に戻るのとさして差はない距離がある。ちなみに東京から越後湯沢は200km、越後湯沢から新潟までは150km近くある。思ったよりも差が無いのだ。

 温泉と魚沼コシヒカリのおいしい朝ごはんと朝から贅沢をして出発する。


 「さぁ、今日は目的を果たしに行くぞー。とかいいながら寄り道はするんだけど。」


 朝早い時間は初夏なので丁度いい気温だ。国道17号線に入って湯沢町とさよならをすると塩沢町だ。令和5年現在ではここから南魚沼市となる。塩沢町にある魚沼平野の田んぼは青一色の空と日に照らされ彩度の高い緑のコントラストで緑色の絨毯ををより映えさせていた。グリーンシーズンのスキー場地帯は本当に緑一色だ。スキー場もゲレンデ部分は草一色になるので山の斜面も明るい緑になっている。国道17号線の魚沼平野をちょっと走ったところで田んぼの景色をクルージングするのも気持ちよくてこのまま走っていたい気持ちを抑えつつ、国道353号線に向けて左折する。上越のメインであり歴史のあるスキー場はこの魚沼丘陵にすべてに近いくらい集結している。「魚沼丘陵」と呼ばれているので小高い丘感があるが実際に登り始めると結構な急斜面で、この急斜面こそがスキー場を支えているのだ。魚野川の対岸にあるスキー場としては舞子後楽園スキー場、岩原スキー場、中里スキー場が有名だが実際そのくらいしかないのは主脈の越後山脈に至るアプローチが長いためで、利便性、地形的に魚沼丘陵が最も適しているからだろう。


 そんな魚沼丘陵だが丘とは呼べない高いところは1000mを有している。魚沼平野の標高が150~350mほどでこれから向かう魚沼スカイラインの最高高度は920mなのでやはり1000mに迫る高さを一気に登るのだから道路であっても急峻であり、豪雪地帯なのでスノーシェッドに覆われた道路を登っていく。十二峠トンネルを抜けてすぐに魚沼スカイラインの看板が出ていた。スカイラインと呼ばれているので有料道路かというとそうではなく、通称であって正式名称は「新潟県道560号田沢小栗山線」。


 「ここを曲がっていくのね。スカイラインという名前の割にはこれは…林道?」 


 そう、名ばかり観光道路的なスカイラインの名前で実際に走るとかなり狭い道路で十二峠から魚沼展望台に上る道は特に急斜面なのだが、正しい意味で稜線を走る道としては稜線をきっちり走り切る道路もまれだと思う。魚沼展望台に着いた。オートバイを止められるところからは眺望は見通せないが、展望台は広く見晴らしの一番いい場所に来たら左手にこの先行く魚沼平野が一望でき、右手は越後湯沢の町並みも見え、越後と上州の国境として聳え立つ谷川連峰も見通せる。街中からほんの10kmも走らないでここまで眺望が広がる道路を走らないのはもったいなかったし走ってよかったな。と綾は緑の絨毯と巨大な山塊をしばらく見つめていた。この先の奇妙な景色や驚くほどのアップダウン、急峻な下りがこのあと待ち受けてるのだが、この時は知る由もなかった。

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