第60話 温泉街とスキー場とバブルと
駅前にあった蕎麦屋に入った綾。早速メニューを見ると見たことのない文字があった。
「へぎそば?ナニコレ?」
ふのりをつなぎとして使った越後そばに「剥ぐ=はぐ=へぐ」のなまりからきた木を剥いだ板でできた「へぎ」という器に盛られたそばのことを「へぎそば」と言うそうだ。
「一人で来たの?ちょっと量が多いと思うけど大丈夫かな?」
店員さんの心配をよそに綾は注文してしまった。ところで、この蕎麦屋は中に入ってしまえば東京の個人経営の蕎麦屋そのもの。という内装で特段目立つ感じではないがそれが反って安心感のある店構えで店員さんも特になまりも無くまるで地元にいるようだった。越後湯沢は新幹線で東京から1時間ちょっとで来られてしまうのでもはや東京圏と言っても過言ではない。さっきまで国道17号線をひたすら山越えして走ったが、街中は東京のものが結構流入しており近郊都市の街にいるのと変わらない感じでもあった。
早速、へぎそばが来る。
「うっ!これは多すぎだったかも?」
店員さんの言う通りかなり大きい器にそばつゆの器にちょうど入るサイズのそばが並んで盛り付けされているが、何個くらいあるかというと数えてみたら24個もあった。ひとつつまんでそばつゆに付けてつるんと食べるとのど越しがいい、東京のそばよりもコシもあってそばつゆも心なしか出汁が濃い目という感じでするすると入って行ってしまった。最後の4個くらいからちょっとお腹が膨れ気味だったが完食してしまった。
「はー、やっぱり地のものを食べるのがいいわね~。満足満足!」
遅い昼飯を食べたのでここからは街中散策をしてみる。駅前をもう一度見渡すと、駅は新幹線が止まるので近代化されてて土地の雰囲気に対してめちゃくちゃ大きい。左側にお土産屋があった。原宿~。とか書かれている。この時代はバブル真っ盛りなので、ファッションの最先端は原宿。というのが定番で今からすると確かに原宿にはアパレル会社なども多いがそこまで地名を推すなんてのは無いけど、この時代はそういう商魂が絡んでくるとどぎついほどに推してくる傾向があってそこが昭和なんだろうな。と思った。
エキナカにもお土産屋があってこちらも原宿の文字。ここは越後湯沢なんだけどそういう時代なんだな。と思う。おいてあるものも蛍光色でビカビカしててバブルらしい陳列に綾はちょっとだけ感動と寂しさを覚えた。この越後湯沢を昭和37年に走ったらどんな景色が見えていたのだろう。昭和37年だと国道17号線はすべて開通しているが新幹線も来ていないしスキーブームも訪れていない。
置いてあるもの以外は思ったほど令和とは変わらなかったので駅から離れるならオートバイで巡ったほうがいいだろうとVTZ250に跨る。宿までは本当にあと少しなので宿に行けばいいと思うが宿は街中から少し離れているので歩くにはちょっと距離があるのでちょっと面倒だがオートバイで散策することにした。
駅のロータリーから右に曲がって温泉街を走る。時期的に営業はしていないがスキーレンタル屋通りという感じでそこかしこにスキーレンタル屋が並んでる。合間に射的場があったり温泉饅頭を売ってるところもあって、スキーハイシーズンに来たらさぞ人だかりになってるのだろう。今は初夏なので人は少ないがそれでも温泉客が浴衣を着てあちこち歩いているので温泉街らしさは感じられた。
越後湯沢のスキー場のメッカと言われる所以は駅から歩いてすぐにスキー場があることだ。布場スキー場や一本杉スキー場はこの温泉街の左側にあって旅館やスキーレンタル屋の真裏がゲレンデである。右側は新幹線の巨大な高架である。ロープウェイ乗り場のあたりでオートバイを止められるのでここで止めて散策をしてみる。
「わー!スキー場だぁ!ってゲレンデにマンションが建ってる(笑)」
越後湯沢と言えばリゾートマンション開発も盛んだった。布場スキー場のゲレンデの中にリゾートマンションが建っている。下部のゲレンデはもはや自然を堪能しながらするスキーとは全く別の世界で、バブル真っ盛りの象徴と昭和らしい景色の温泉街とごちゃまぜになった斜面にスキー場があるのである。冬の越後湯沢をみてみたいものである。商魂とスキー客とバブルの競演といったところだろうか。
温泉街もこの季節だと開いてないお店も多く殊に駅から離れたところは閑散としてしまっているので、これ以上歩き回っても何も得られない気がしたので宿に向かうことにした。
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