第57話 三国越え3ルート

 草津温泉で今日の行程の前半の疲れを取った綾。湯畑を後にして中之条までは来た道を戻る。中之条からは国道145号線で沼田に向かうと若干ながら国境が近くなる。志賀草津道路、草津温泉を思った以上に楽しんでしまったので予定よりも時間がディレイしているが国道145号線は特に混んでるわけでもない、見晴らしがいいわけでもないので淡々と走ったら思ったよりも早く沼田に着けた。沼田と言えば、令和5年時点で来年あたりアニメの聖地になりそうな予感がしているが過去沼田を舞台にしたアニメは無いし群馬県の中でもスキー場の通過・分岐点としての立ち位置で思ったほど目立つ街ではないが地理学的には結構特異な場所で、目に見えて河岸段丘の街だ。沼田の街は河岸段丘の上にあるが、国鉄の駅は河岸段丘の下にある。規模の割に交通の便がなんとも不思議な街である。似たような場所だと中央東線の上野原駅も同様な構造になってて街の成り立ちもあるが、鉄道を通すにもこの位置しかなかった。というのが所以だろう。


 綾もこのご多分に漏れない通過点の旅行者である。関越自動車道に乗るにも国道から河岸段丘の断崖を登って街中を通り抜けないと高速道路に行けない、それなら月夜野ICから入るほうがスムーズである。国道17号線の月夜野IC手前でいったん休憩してこのあとどうするかを改めて思案することにした。


 「うーん、もう夕方近いから新潟市街までは…えー?!まだ200km近いの?!」


 上州と越後の国境までもあと20kmちょっとなので新潟県は近いが新潟県も実に広くて新潟駅となるとこのあたりからでも200km近くある。綾の住んでいる千葉県からだとちょうど距離にして半分来たところである。時間は14時を過ぎたところで余計なルートを走ったせいもあって疲れをちょっと感じるので、今日は越後湯沢まで行って泊まることにした。温泉街で平日ならその日にでも泊まれる場所があるだろうという判断で決めた。速攻で電話を入れて、越後湯沢にあるノーベル作家が逗留したという宿に連絡を入れたらあっさり宿泊の予約が出来た。


 「余裕も出来たからこの先の道路をもうちょっと調べてみよう」


 国道17号線をそのまま走るとクロソイド曲線記念碑のある三国峠を越えて山の中を走ればすぐに越後湯沢だ。一方関越自動車道を調べてみると、関越トンネルももう出来ていた。関越トンネルは1985年に開通したトンネルだが昭和63年では令和現在の下り線が開通しているだけでちょっと信じられないが幹線高速だが対面通行だった。もう一つのルートは国道291号線。こちらはちょっと調べてそっ閉じだが、元々はこの国道291号線を幹線道路として計画していた時代があった。いわゆる清水越えと呼ばれるルートだ。水上から谷川連峰を這うように登って最終的には清水峠を越えて新潟の塩沢に出るルートである。当然ながら豪雪地帯を抜けるのだがこのルートを国道指定した1885年では馬車が通行できるよう整備されていたというのだからたまげたものである。そして提案したのはあの大久保利通である。現在は谷川岳一ノ倉沢から先は事実上廃道でこの当時水上に行く道路は水上道路という県営有料道路だった。


 「うーん、そうなるとやっぱり国道17号線一択ね。」


 ところでクロソイド曲線とはなんぞ?と思われる読者諸氏のために以下に引用も付けておく。


 クロソイド曲線とは、慣性航法の理想軌道上を走行する、消費エネルギーを最小にする経路である。既述の通り、クロソイド曲線は容易なハンドル操作のために道路等に利用されているが、クロソイド曲線の区間が短過ぎると、これも運転者に無理なそれを強いることになってしまう。安全なハンドル操作のためには、クロソイド曲線区間の走行時間が3秒以上とならなければならない。


 要するに一定曲線を描いて次の曲線を描くと急ハンドルになるので準備になるための緩やかな曲線が描かれている。と考えればいいかと思う。


 国道17号線を三国峠に向けて走る綾。実際にはあちこちに採用されているが、いざクロソイド曲線発祥の道路と聞くとさぞ走りやすいのだろうという期待を持って向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る