第40話 ターンパイクは無かったので沼津で泊まることにした

 箱根峠まで戻ると少し霧が出始めてきた。日が傾いてきており、薄日で夕陽なので霧に反射されて全体的に赤っぽく見通しが悪い。走りづらいので一旦止まって、峠で地図を改めて見直す。静岡県道20号熱海箱根峠線はまだ十国自動車専用道路と呼ばれており湯河原峠まで進んでも、ターンパイクはまだ出来ていなかったのでターンパイク経由でオートバイ・自動車乗りのメッカともいえる大観山にも迎えないし、当然ながら駐車場と施設は無いだろう。何より霧がだんだん濃くなって来ており一刻も山を下りたい。


 「うーん、ちょっと予想よりも押しちゃったし、ガスが出てきたので沼津の方に降りて泊まってみるか?!」


 VTZ250で昭和63年の東京を走った時は暗くなってから不安を覚えて急ぎ足で帰ったが、今回は高速道路がほぼない箱根からの帰路を想像しただけでそっちの方が不安になってきたし、何より箱根はガスが出ると見通しが効かないくらいの濃霧になることもしばしばある。


 地図を眺めていると、三島から沼津に路面電車らしきものが地図で見えた。俄然綾は静岡県側に降りることに意欲が湧いてきた。昭和37年でも何故かつながるグーグルで検索して調べてみると確かに路面電車が走っていたようだ。これならもう行くしかない。先のことで不安いっぱいだった綾はすっかり三島・沼津に向かうことで頭がいっぱいになっていたが、どこで泊まるかも考えておかなくては行けない。


 沼津と言えば、あのアニメの聖地の旅館なら昭和37年でも営業しているだろうと電話を入れる。本来一人で泊まる人は少ないようだが、ギリギリに電話したのがよかったのか何とか泊まれるそうである。あの太宰治も「斜陽」を執筆するために逗留したらしい。電話はスマホから電話で通じたのは驚きである。どうやってつながるのかはあまり考えないほうがよさそうだ。

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