第39話 芦ノ湖スカイライン

 箱根新道を走り切ると標高は800mを超える。ここまでくると本当に高原の澄み切った空気と雄大な景色がすべてを忘れさせてくれる。空が近くなった気がして雲が手に届きそうだ。


 「やったー!箱根に着いた!今どきなら高速を使って行けば3時間掛からないのに、朝から走って何時間…7時間かぁ。」


 ツーリングの醍醐味はやはり困難な道のりを乗り越えて目的地に着いた達成感だな。と綾は思った。令和だと困難なツーリングというのは関東周辺だけ走ってもなかなか経験しがたい困難に遭遇することまずなくて、交通網が整備され切った弊害でもあるな。と思う。最近は困難なルートは台風など災害で通行止めになったままという道も数多くあって、日本のインフラが発展しながらも一方で衰退しはじめてる現実でもある。


 CB72は芦ノ湖スカイラインに足を向けた。ここが眺望としては箱根では最もハイライトな道路だと思う。実際に走ってみると昭和なのか令和なのかいまいち判別がつかないくらい特に目立つ構築物もない、左右どちらも開けているのでまさにスカイラインの名の通りだと思う。三国峠まで走らせて小田原以来の休憩にした。


 三国峠展望駐車公園は三国山の裾野に位置しているので開けてるのは静岡側なので、富士山がよく見える。富士山もいつの時代も変わらない景色なので令和に戻ったとしても景色自体はさほど変わらないはずだ。宝永噴火前まで遡らないと山体の変化は無いので、さすがのそこまで遡った富士山を見ることは叶わないだろうな。と綾は思いつつ、駿河湾方面を見渡すと沼津の街が見える。こちらも遠方から見る限りは違いがあまりわからない。


 綾のとっての今回の旅は最終目的地は目的ではなく、途中の景色こそが胸躍らせるものだったわけだが、昭和の道路事情や環境対策を考えると帰路で頭を悩ますのであった。地図を開いて、持ってきたサーモボトルのコーヒーを飲みながら帰りのルートを思案する。芦ノ湖スカイラインの先は静岡県道のみで箱根スカイラインも芦ノ湖スカイライン湖尻線もまだ開通していない。県道を下ると裾野まで降りて、迂回しながら国道246号線を走ることになるが、この時代なのでおそらく御殿場から先はちょっと酷道チックになるに違いない。特に谷峨のあたりは急峻な地形を縫うように走る国道なのでこの時代だとあまりにもリスキーだろう。実際地図とやはりネットに繋がっているグーグルマップを見て比較する限り、御殿場市街を過ぎるとおそらくほぼ旧道を秦野市街まで走ることになりそうだ。これはちょっと厳しいな。


 踵を返して、再び箱根峠に向かう綾。



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