第29話 京葉道路

 土曜日の朝になった。まだ夜が明けて間もない早朝だと肌寒さが残る。先々週のようにダラダラせずに今日は早起きである。なぜなら、箱根に向かうことにしたからだ。今なら箱根に向かうなら渋滞さえ無ければ、首都高速湾岸線から横浜新道、戸塚バイパス、藤沢バイパス、新湘南バイパス、西湘バイパス、箱根新道経由でわずか2時間ちょっとで着いてしまう身近な観光地であるが夜に調べてみるとCB72が出た頃はありとあらゆる高速道路が無いようで、ほぼ全て下道を走る覚悟が必要だからだ。


 VTZ250の時は発売年より少し後の事実上昭和最後の1988年の東京に飛ばされたから、最悪だと1960年の道路を走らなければならないが1972年くらいまでにならないと首都高速で横浜まで一気に走ることが出来ないから下道を相当走らないと辿り着けないのはほぼ確実だからだ。


まだ朝靄が掛かる中、CB72に火を入れる。街中はやはり木造住宅が多く、心無しか遠くまで見通せて住んでいる街の雰囲気と大分違うようである。今回もまた地図無しだが事前に調べた綾は無敵と思ってるあたりに楽観主義者の片鱗を感じる。


 予想通り、京葉道路は開通済なのは高速道路歴史を少し齧ればわかる日本初の自動車専用道路※だからだ。1960年には開通しているのに令和の今でも未だ無料化出来ていないのは甚だ腑に落ちないがドル箱道路を無料化したくないという天の力が働いているからだろう。


 船橋ICから京葉道路に入る。まだ朝早いからか車はかなり少ない。原木ICあたりを見通すと綾の知らない景色が一気に広がる。そこには朝靄の中に一面の田んぼが広がっていた。初夏に近い時期だから緑の絨毯の中を不釣り合いな高規格道路が一直線に霧の向こうの東京という魔都を目指す特別な道のように感じた。


 「ここまで景色が違うとちょっと不安になるなー。でも新鮮さが全然違う!」


 綾の中で期待と不安が拮抗しつつもやがて期待が上回るのは朝靄が抜けて江戸川を渡るころだった。


 が、やはり首都高速は無く、そのまま篠崎に降りることになるが降りてもまるで千葉県にいるような視界が広がる。江戸川区は千葉の植民地と呼ばれるくらい23区の中でも田舎が残る地域である。令和の今でも農業は営われているが、今目にしている景色は一面の畑だ。これが東京?と目を疑いたくなる。今で言う環七あたりまでこの景色が続いていた。


 京葉道路の先の首都高速小松川線が出来るのは1971年なので少なくともそれより前であることは確認できた。ちなみに京葉道路の起点は一之江橋でここから東側にキロポストが設置されている。


※法令による指定のない日本初の自動車専用道路は大船~江ノ島を結んだ京浜急行自動車専用道路で、日本初の高速道路は名神高速です。

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