昭和37年へ
第27話 代車
バイクが不調だったのでこの週はバイク通学は一切しないで電車通学だった。月曜のラッキーはその日限りで翌日からはみっちり授業とアルバイトの日々を送ることになった。
「ふえー、疲れたぁ。結局不幸中の幸いってのは月曜だけだったわね・・・。」
ようやく羽を伸ばせる週末を迎えた綾は金曜の夜遅くに帰宅して途中コンビニで買ってきたビールとスモークタンを酒のアテにこの1週間をねぎらうのであった。窓枠に座って星空を眺めながら、明日どうするかを考えていた。
「明日はバイク屋に行ってVTZの調子を見てもらわないと。」
ほろ酔い気分なのだが、バイクのことを考えるとちょっとだけ不安な気持ちになった。何しろ古いバイクなので部品が無くて修理できない。という可能性もあるな。と同時にあの日曜の出来事をもう一度体験できなくなるのではないか。という不安だ。不安に駆られてビールをもう一本飲んだところでどうにでもなぁれ。な気分になった。綾はそんなにお酒は強くないようである。飲み過ぎには注意したい。
朝起きて、VTZ250のエンジンを掛けた。掛ったが心無しかやはり不調っぽい感じであるがバイク屋までは行けそうだ。
バイク屋「ようこの」に着いて陽子さんにまず状況を説明する。
「うーん、エンジンの吹けが確かによくないわね。。。」
よくあるプラグの不調やイグニッションコイルの不調など電気系を軽く疑ってみたがどうもそんな感じではないようだ。
「綾ちゃん、ちょっと今日は預かるから明日はこのバイクに乗ってみる?」
と、陽子さんが用意してくれたバイクはCB72というオートバイ。古めかしいバイクだが今見ると逆に新鮮さがある。ほぼ同じ排気量で同じ2気筒らしいが、ハンドルが遠いし、何より重い。エンジンを掛けると思った以上にエンジンは回る感じだ。
「いいんですか?じゃー、ちょっとお借りしますね。」
正直借り物のオートバイというのは勝手が違うので緊張しがちだが、このオートバイは自分のVTZとは違って何か変なオーラを纏ってる気がするのだが、代車なのだからそんな御大層なものではないはず。という思い込みで借りることにした。
この時の陽子さんの顔はどこかしめしめ。というような表情をしていたのは後になって理解するのだがこの時はこのCB72の造形に見惚れてそれどころではなかった。古いだけあってオートバイの構造としてはいたってシンプルだが、空冷エンジン独特のエンジンのフィンや、付いているパーツの丁寧さは素人ながら伝わってくる。最近のチープなパーツとは一線を画している。
だが一番はメーターだ。
「陽子さん、このバイクのメーター何か変じゃないですか?」
そう、1つのボディにタコメーターとスピードメーターが同じ盤面に左右に配置されてて、タコメーターは時計回り、スピードメーターは逆時計周りに配置されてて、対象的な動きをする。さらに距離計は縦に配置されてるのでメチャクチャ読みづらい。
「こういうバイクも昔はあったのよ。まぁ楽しんでみて」
陽子さんがしめしめという表情をしていたのはこのことだったのかなと、あとでそれは見当違いだったのだが、この時は変に納得してたので借りることにした。
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