第21話 上野バイク街
昭和通りは首都高の高架下を走行する国道4号線なので、正直いつ走ってもどことなく暗がりでゴミゴミした街を走っている気分になる。日本橋からスタートしてすぐに首都高の高架下を上野まで延々走らされるのだが、これでも道路の北の玄関口である。スタートが高速の下というのはいささか残念な感じだが鉄道の北の玄関口と呼ばれた上野駅も上野東京ラインの開通と同時に途中駅の一つとなってしまったのも時代の流れといえばそうなのだが、関東大震災をきっかけとした浅草といい、最近の東京は西高東低的に西の方がどんどん栄えていく傾向があるのでスカイツリーには頑張ってもらいたいものである。
上野と言えばバイク街だ。令和の上野はいわゆるバイク用品、中古販売など大規模から小規模店舗がずらーっと並び、国道4号線沿いに路駐で埋め尽くされたオートバイという景色こそは失われているが、実はわずかながら老舗のバイク屋・用品店は生き残っている。
上野バイク街は正確な住所は東上野から北上野のあたり。綾はこのど真ん中あたりにうまくVTZ250を止められた。
オートバイの路駐で国道の路肩が延々と埋め尽くされてる景色はなんとも壮観である。路駐してるところでおもむろに買ったばかりのパーツを取り付け始める輩もいたり、一歩奥に入るために路地に入ると年末のアメ横みたいな人混みである。ちょっとしたイベントが週末の度に繰り広げられていたのが昭和の上野なのだろう。人混みに圧倒されながらも突発で行った上野に綾の心は踊る。やはり人は祭のような人混みと熱気は多少なりとも心理的影響を受けるのだろう。コミケなんかもそんな感じだと思う。
ネット情報でなんとなく聞いたことがあるあの光輪モータースを見つけた。店舗のロゴはCORINで大きなメイン店舗の周りにヘルメットだけの店舗、パーツを取り扱ってる店舗。と、今のロードサイドバイク用品店のような1つの建屋で大体1~2フロアにすべてが揃っている。という形態ではなく、ゴミゴミした感じではあるが、通り全体が店舗であるかのような祭りのような雰囲気なのは綾の高揚感をさらに盛り上げるものであった。
「これは熱気にやられちゃうわ。でも、この勢いこそがこの時代の原動力そのものなのかも。」
そう、時はバブル時代、飽食の時代であり、消費は美徳というか消費自体が娯楽と言っていい時代なので店舗に置いてある高価なパーツやオートバイが歩いている間にも売れているのが見えていた。特にCORINは目玉オートバイを展示して購入欲を煽るような展示がうまかったので成長したのかもしれない。
JR側の入谷口通りに出ると用品店は少なくなり、小規模の中古販売店が軒を連ねている。綾も冷やかしでちょっと覗いてみると、今なら漏れなくプレミアが付いて高価そうなオートバイがピカピカの新古車で新車販売価格よりもこなれた値段で売られている。例えば87NSR250R やVFR400R(NC24)あたりなら40~45万円くらいで売られている。当時は中型オートバイと呼ばれる400ccクラスはタマも多くて発売から2~5年以内のものくらいしか置かれていない。それ以外はごく一部のモデル以外は正直叩き売りに近い扱い、大型オートバイはいわゆる限定解除という名の公安委員会で実技試験に合格しないと乗ることができないのでタマ数も少なめでパワーがあって性能が良くてもデザインが中型と比べるとやや遅れたデザインだったりと日本国内市場に向けては作っていないものがほとんど(国内向けは750ccまでというのがメーカー自主規制だった)で実際、逆輸入車。と呼ばれるモデルが多かったので高額なものと叩き売りされてるものに大きく分かれる傾向があるようだ。
この後、昭和通りを渡ってD's(ディーズ)に行ってみた。こちらはビル丸ごとオートバイ用品の店舗。という感じでCORINとはだいぶ店舗形態が違っていてどちらかというと今に近いのかもしれない。陳列具合とかはなんとなくパソコンショップを髣髴する感じではあるが。ここで、特価品のジャケットに思わず心を奪われてしまった。KADOYAというメーカーの背中にNCと書かれているジャケットだ。ポケットが多くて機能性にあふれている割に単色で令和の今着てももしかしたら違和感はないデザインかもしれない。2万円くらいで買った。アパレルにしてもパーツにしても値段が今よりも若干安いくらいで物価差を感じなかったのに綾はびっくりしたが、逆にバブル時代というのにバカ高い用品というのもさほど無い。オートバイも高いと言ってもVFR750R(RC30)が展示されててこれも新車販売価格(150万円くらい)程度で売られているので正直目玉が飛び出る価格帯というものが店頭には置かれてないということを考えるとライダー年齢層をある程度想像させてくれるし実際上野を闊歩しているのは高校生からいいところ30代くらいがメインといった感じだ。
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