第18話 神田神保町
雨の上がった神田神保町を綾は散策する。先ほどまでの初夏を感じさせ蝉がいつ鳴いてもおかしくないような汗ばむような陽気から爽やかな風が吹く春らしい空気に戻った。散歩するにはもってこいの気候。
スマホをおもむろに取り出して令和時代のままの表示のグーグルマップと先ほど買った新品の昭和63年の地図を見比べる。
「このへんでめっちゃ変わったのって神田南神保町のほうね。さっそく行ってみるか」
古い時代の街並みが再開発で生まれ変わった街として存在する場所こそがこの旅の一番の醍醐味であろう。湾岸地区は元が存在しない傾向が高いから過去を見ても何も感激が無い。
早速、足を踏み入れると小さな三輪スクーターが狭い路地に置かれている。この時間と日曜日だから書店取次店が稼働していないが、置かれている三輪はダイハツハローと呼ばれるスクーターらしい。また店舗によっては詰みあがった本がここが書店取次店が密集していることが一目できる。グーグルマップでいうと神保町三井ビルディングのあたりである。こうしてグーグルマップを見てるとビルの中を突っ込んでいく様が見えて面白い。というか、何で表示できるのか皆目見当がつかないが都合はいいので気にしないことにしておく。
そのまま東に千代田通りまで行くとこの一角の終わりになるのだがそこにキッチン山田屋。というこの時代においてもなんともレトロな店が有ったのでここでチキンライスを食べることにした。後で調べたが出版人にはそこそこ有名な店で有った様である。綾の嗅覚も捨てたものではないがなかなか頼んだものが出てこない。
味はというと、普通である。ただ、はらぺこのお腹にはとてもおいしいものに感じた。昭和ランチを楽しむ。という新しい楽しみも増えた。
小腹を満たしてまた神保町を徘徊するが再開発の成り立ちがわかるな。というのが阿波屋酒店の存在だろう。令和にはきれいな高層ビルの1階に居を構えて今も営業が続いている。昭和のこの当時はいわゆる普通に郊外にある酒屋さんそのものだ。ここでジュースを買って喉を潤しながら散策する。
その近くに錦友館なるこれまた郊外にありそうな旅館があった。令和では缶詰体験ツアーなるものがあるのはニュースで知っていたが、どうもここはその漫画家さんや小説家が缶詰となるツアーの旅館の本物だった。鉢植えに電気が走ってるあたりに作家の牢屋的なものを感じてしまう綾だった。実際はいたずら防止の対策なんだろうが。
ちょっと歩くだけでも令和の神保町と昭和の神保町はがらりと変わってしまったんだな。というのがわかってこの旅はこういうことをすると面白さがより増すと言うことを覚えた綾は帰宅したら次に行く街を事前に調べてから行こうと誓った。
ところで、秋葉原に行くつもりだったが時間もすっかり夕方になってしまった。小学館ビルの隙間から夕陽が射して目を眩ませる。視覚が失われたときに思った、この街は平日に見に行けば当時の出版バブルの街を余すことなくみられるのだが、綾がこの時代に行けるのは日曜だけだと言うことを思い出して残念だと思った。
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