第16話 三省堂書店神保町本店

 祝田橋交差点まで来るとそれまでビルが林立するコンクリートジャングルから一気に見通しが開けた石垣と堀と芝生の世界に変わる。今も変わらない景色だ。空が広くなり、風通しも気持ち良くなったのでオートバイが通れるのかよくわからないアンダーパスやゴミゴミした景色しか無い昭和通りから向かうよりずっとオートバイ向けのルートだったので行き過ぎて正解だったことにする綾。


「少し休憩したとはいえ、1時間以上走ったから休憩するか。」


空模様はそれまで青空であったが、鉛色の雲が迫って来たのもあるので靖国通りの手前で神保町にいることを理解したのもあり、今まさに解体されている三省堂書店神保町本店で地図を買うことにした。


駿河台下交差点は十字路ではなく五差路だが靖国通り西行きには左折専用路もあり、微妙に六差路になっている。この左折専用路を除いた一番狭い路地がすずらん通りと呼ばれる通りで、この通りにオートバイがずらーと駐輪されているので、ここに綾もVTZ250を船の科学館周辺で止めた以来、ようやくエンジンを切った。


 5月も後半になると気温も高めでエンジンあたりから水冷といえどチンチンと音が鳴り、陽炎が出るくらいには下半身が焼かれるから街中の走行は疲労も早い。空を見上げると青一面だった空がすっかり鉛色に変わり、シャワーのような雨が焼けたアスファルトを叩きつけ始めた。


 綾は慌てて三省堂書店神保町本店に駆け込む。

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