第9話 ペール缶とオイル

 オイル交換だけをぱっぱとやればものの10分もあれば終わってしまうが、この店に来ると1時間以上は滞在することになる。店長の陽子さんはおしゃべりが好きだ。とにかく笑顔を絶やさない、接客商売が天職ともいえるタイプだろう。


「綾ちゃん、今回もいつものオイルでいいね~。」

「はい、いつもの安いオイルで」


オイルはペール缶という大凡20Lくらい入る缶からジョッキに注いで入れるのだが、どうして20Lなのかは謎だなと思った綾である。日本の規格だと1升が1.8Lで灯油ポリタンクは大凡18Lなのだから18Lなのかと思ったらJIS規格では10Lと18Lと20Lなのである。(JIS Z 1710:2012 灯油用ポリエチレンかん)ちなみにドラム缶が200L(実際は200L以上の容積はある)なのでそこから分配するにはいい数字だからなのだろう。1バレルは158.9Lなのでこの範囲で割り切るなら20Lはまさに好都合なのかもしれないが、ドラム缶が満杯にならない1バレルはなんだかとても中途半端だな。と、綾が脳内で勝手に思ったことなので実際はどうなのかはわからないが。

※1バレルが単位なのは樽(バレル)を使って原油が取引されていた名残なだけ、灯油缶は5ガロン缶や1斗缶から来ている


いつも見ているこのペール缶はなんだかレトロなデザインのような気はしていたがとにかくオイル交換が安いのもあるし、コーヒーも飲めるし(自分で注いだインスタントだが)綾にとって他の店に行くという選択肢を作る必要性がないくらい居心地のいい場所と時間だった。


「作業が終わったわよ、そういえば今日は何か聞きたそうな顔していたけど何かあったのかしら?」


綾はさすがに昨日の出来事を話すにはさすがに素っ頓狂すぎる内容なので話したいがここはぐっとこらえて、普通にバイクの話でも聞いてごまかすか。と店の奥に置いてあるNSRの方に目を向けながら話す。勿論純粋に昨日の出来事で見たあの奥多摩有料道路で見たオイルの焼けた匂いを思い出しながら。


「あのNSRというバイクは走ってるのを見たことがあるんですけど、時々白い煙出してたりするのって壊れてるんですか?」


「あはは、NSRというバイクは2ストロークなのよ。と言ってもわからないと思うけど、オイルをガソリンと混ぜて燃やしながら走るから特に冷間時や、加速するときは白い煙が出がちね。」


綾はオートバイのモデルのヒストリーこそはなんとなくVTZ250を購入するにあたって調べてたから知っていたがオートバイ自体に詳しいわけではないので疑問に思うことは全くもって普通のことである。殊に、2ストローク車両はこの令和においては新車販売は事実上無い(無いわけではないが通常販売ルートならまずたどり着かない)ので知る由もほぼない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る