第8話 バイク屋「ようこの」
今日は平日。大学に行く綾。通学はバイクだったり電車だったりその日の気分で決めている。昨日のツーリングでオイル交換タイミングの距離になったからだ。
普段はポニーテールにしている綾だが、ヘルメットを被るときはおさげにしてジャケットの中に入れて走る。こうすれば髪が風で傷まないし、バイクから降りればただのおさげの女の子である。ひとつ結びでオートバイに乗った時は降りた時に友達におばさん扱いされたからだ。だが、おさげだと今度は幼く見えてしまってどちらがいいかと言ったらおさげだし何より髪の毛が傷みにくいからこっちにしたというのが理由だ。
大学は2限で終わったのでVTZ250を買ったバイク屋に向かう。
「結局、今日は令和5年そのものね。昨日のあれはなんだったのかしら?」
千葉は平坦に思われがちだが、この辺りは谷津という台地と谷が織りなすアップダウンとワインディングが実はあるので思ったよりも走るということも楽しめる。ただし景色はどこまで行っても雑木林と田んぼと荒地、たまに川や湖があるくらいだが、5月の爽やかな季節は変わり映えしない景色の中でも太陽が反射して眩しい水田や初々しいまだ若葉の明るい緑がライディングを楽しませてくれる時期なので大学からバイク屋にまっすぐ向かわずに寄り道するにはいい時期である。これが真冬だったらそんなことはしない。
バイク屋「ようこの」ここでVTZ250を買った。この店のラインナップは今どきのバイクも置いているが、レトロなバイクがやけに多い品ぞろえの店だ。しかも良心的な価格。VTZ250はそんな中でも特別安かったので買ったわけだ。正直現在のバイク相場でも20万くらいである。タマが異常に少ないが、程度のいいVTZ250を見かけたら買いと思ったほうがいいと思う。それはさておき、綾が買った価格は18万である。大学生が買うにはちょうどいい価格だ。
「綾ちゃん、いらっしゃい。」
店主の陽子さんがにこやかな笑顔で迎えてくれた。この店長の人柄や表情で買ったともいえる。年齢の割に若く見えるが昔はレース業界に足を踏み入れていた人らしい。
「陽子さん、今日はオイル交換に来たんだけど…」
綾は昨日のことが気に掛かって陽子さんなら聞いてくれそうかな?と一瞬思ったが、さすがに夢物語過ぎて変な子と思われちゃうかも。と語尾下がりに声を掛けてしまった。
「大丈夫よ、すぐに作業に取り掛かれるからコーヒーでも飲んでて」
店内にはCB750Four、GSX400E、DR500などが目立つところに置いてあって、奥には今どきのレトロファンなら垂涎のNSRや、RGV-ガンマや、完全ノーマルのCBX400Fなども置いてある。冷やかし対策だろう。店頭にはバーゲン価格のバイクとともに今どきのバイク、スクーターなどが並んでいる。
綾がこの店に気づいたのもこのバーゲン価格のバイク一つが現在の愛車のVTZ250だったからだ。
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