第3吐 そこがいいと言え!
太陽が隠れる数時間前。いつものようにファミレスで、文章を書いていた。
人混みが苦手な自分は、あえて混み合う時間帯には入らない。
昼と夕方の境が曖昧な季節。時計を気にすることなく店内に入り、趣味に没頭する。
久しぶりに筆が乗り、書き終えた文章を読み返していた頃、ふと店内を見渡すと数組客が増えている。
特に気にすることはなく、再び目の前の文字達に目を向ける。
そこからどれくらい経ったかはわからない。
気がつくとやけに店内は賑やかだ。
時計を見ると18時。
「やばい。こんな時間か。」
この後、特に予定がある訳ではない。
何がどうということはない。人が多い。
音も流れていないイヤフォンを耳につっこんでいるくらいの自分には、人が多くなりすぎだ。
今日は金曜日だ。学校、仕事が終わり、週末の始まりを祝い、外食が増える。
『週末始まるよ。土日は何しようか記念日』だ。
曜日感覚のない自分を恨む。
そこに7.80代くらいの年寄りと40代くらいの娘の二人組が来店した。
その年寄りは、店員に席を案内される前に店内を歩き出す。
ズカズカとまるで自分の家かのように。
慌てて後ろから「ちょっと待ってくださいよ〜」と後輩が先輩の無茶振りに苦笑いで返すような表情で店員が追いかけている。
我が物顔で店を闊歩する年寄りは「俺ここに座る。もう慣れちゃってさぁ。」と話す。
慣れちゃって?
慣れちゃってって何だ?
慣れとは、意識・無意識に繰り返しているうちにそうである事が自然となる。逆にそうでないと気持ちが落ち着かない。
それが慣れではないか?
しかし、その年寄りは違う。
店の中心にあるその席は、店内を見渡す事ができる。
何よりドリンク、サラダ、スープ、カレーのあらゆるバーへ1.2歩で行けてしまう。
『慣れちゃったからその席じゃないと嫌だ。』ではないだろう。
『その席がいいんです。』と言え!
「はぁ、そうですか。」と店員は苦笑い。
加えて年寄り特有の口をチャッチャチャッチャ鳴らし、メニューの値段が上がった事を恥ずかしげもなく店員に愚痴る。
物価高なの知ってるだろ。年寄りなんてのは一日中暇してニュースか新聞を読み漁っているんだろ?一番の得意分野だろ?
料理が届いたら届いたで商品のサイズが小さくなった事をスケズケと質問する。
それもバイトに。
物価高なの知ってるだろうが。
それを伝えて何して欲しいんだ。値引きして欲しいのか?量を増やして欲しいのか?
極め付けは、「いや、別にいいんだ。」「年寄りにはちょうどいいわ。」
じゃあ言うな!
そこからの会話は、メニューの値段についてぐちぐちと繰り広げられる。
歳をとると、先は短く金の使い道は病院くらいだろうに、どうして数百円の文句を言うようになるんだろう。
歳をとると、一日やる事がなく時間が有り余っているだろうに、どうして信号の無いところを渡りたがるんだろう。
歳をとると、どうして説教したくなるんだろう。
そんな傲慢な年寄りに限って食事のマナーも悪いものだ。
これは、自分の偏見だ。
吐き溜め 藤隆暗澹 @RIKKMAN
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