低級ラノベマニアによる「つまらない」の分解

灯村秋夜(とうむら・しゅうや)

三つのキーワードから考える「つまらないラノベ」

 つい先日、ブックオフで本を49冊売りました。買い取り価格は785円、一冊は値段がつかなかったので引き取ってきました。五十冊を一冊少々に圧縮する超技術、すごいなぁ……こうなった理由は、ラインナップがどれもこれも「売れなかった本」だからですね。処分行きの本は18年産かつ一巻打ち切り、妥当なラインでしょう。オウムの教祖が死んだ年だとか聞いてましたが、それとラノベの出来は関係ないだろうし。

 私は2018年九月ごろより低級ラノベマニアをやっておりまして、面白くないと感じた点を創作に活かせはしまいか、というテーマで愚考を発表していたこともあります。そのようにプラスの目線を持とうと思ってなお、やはりどうしようもないと思える作品が出てくるのは……なんなんでしょうね。以前に考えたことのある「期待感・没入感・読後感」というキーワードあたりが、このへんの答えになっていそうだなと感じます。




 期待感とは何か、とひとことで回答するのなら「表紙買い」「タイトル・あらすじが気になる」ことでしょう。絵が良ければ、イラスト集としての需要は満たせるかな、程度の考えを持つこともできます。フルカラーのイラスト集、同人誌でも千円以上は当然なので、シチュエロ白黒一枚からでもいい人は購入するかもしれませんね。私が購入した中には、表紙がすでに終わっている本もいくつかありました。巻頭カラーも死んでいて、ちょっと目を疑いましたね……

 タイトルはAV化していて、お好みの内容が入っているかどうかを判断する材料としては使えそうです。私が知っているものだと、漫画ですが『カラーレス』『カムヤライド』など、シンプルなタイトルでも心惹かれるものはあるので、書架を見てぱっと読めないタイトルは敬遠してしまいます。ウェブだとまだいいんですけど、レタリングさせられる人の気持ち考えたことある? って思いますね。

 ラノベのあらすじだと、トップシェアを握っている(ついでにこのカクヨムにもガッツリ関わってる)KADOKAWA系列は全般的にクッソ下手くそでがっかりしますね。プロが書いてるんじゃないの? ってツッコミがもはや無意味に思えるくらい、日本語の破綻や重要部分のネタバレなどボロッボロ。トップシェアならもっと上手いやつ雇えよ。HJ文庫の方が格段に上手いと思います。講談社とか小学館はまあ普通。せめて「核心のネタバレをしない」「内容に沿っている」くらいは守ってほしいものです。

 こういった「読む前に高まる期待」は非常に重要だと考えています。料理のいい香りがしてくると、食欲をかき立てられるようなものですね。ぱっと目に入った盛り付けがおいしそうですとか、色味が整っているというのもあるでしょう。




 次に考える「没入感」は、読者に大きく依存していて、作者からのコントロールが難しいところだと思います。共感性や映像的表現、展開への納得感が主なパーツでしょうか。私はこの辺りが下手くそで、高校生からずっと執筆しているくせに一向に上達していません。読者との意識の乖離を感じさせられる出来事もちょくちょく経験しており、「ヒロインがかわいい」という感想をもらったときは、だいたい大げさで嘘くさいキャラ付けをしたときのことでした。「共感できるリアル」にこだわりすぎて、「フィクション」を作るのが下手なんですかね……。

 映像的表現はオプションパーツなので最低限でいいとして、共感性は是が非でも欲しいところです。わざわざ共感ではなく「共感“性”」と銘打っているのは、まったく同じ感覚を抱くことではなく、そうなるだろうなと思わせることだからですね。例えば「目の前にゴブリンがいたらどうする?」という状況で「殺して食べる」という答えが思い浮かぶ人はいないと思います。いったいどういうことなのかと分解して考えてみると、まず「我々は敵対者と殺し合った経験があるか否か」というところから入るべきでしょうか。


 私は人を殺したことがありませんし、動物についても同じです。飼っていたカブトムシが死んだことはありますが、身近に死を見届けた最大の生物はそこ止まりで、ハムスターやネズミくらいの大きさの動物すら殺したことはありません。交通事故に遭って死んだ動物を見たことはありますが、自分で殺したことはなく、解体して食ったこともありません。できるやつがいたら怖い・すごい、と思うのがふつうだと思います。

 また、我々は降りかかる危険について、立ち向かう以外の対策法をいくつも持っています。警察や消防に連絡するのもよし、自衛隊や猟友会の方々もいらっしゃいます。大量に出血している人を見たら、まず救急車を呼ぶことが頭に浮かぶのではないでしょうか。ここで一発ハイヒール! とかいうやつはいないでしょうね。

 上述の内容から、「目の前にゴブリンがいたらどうする?」という問いに対して、現代日本的価値観を持った一般人は「逃げる、隠れる、助けを呼ぶ」あたりを選ぶと思います。むろん危険地帯にあって大声を出すリスクもあるでしょう、土地勘がなくて逃げられないし相手の方が速いこともあると思います。そこで初めて「立ち向かう」選択肢が出てくるわけで、先んじて「殺す」とは思えないわけですね。そんなわけで、価値観の変遷を描かずに「俺のチート能力でゴブリンを殺せた! 気ん持ちいぃいい!」なんていう人間がサイコパス呼ばわりされることになります。

 暴力を肯定できる展開は、私が思いつく限り「やむを得ない防衛のため」「俺がやらねば」「こうすることで認められると考えている」「力を振るう快楽に溺れている」くらいでしょうか。後ろふたつについては、主人公の人間性にやや疑念が残るものの、未成年者であればまだ成長の余地があるぶんマシだと考えています。主に悪役側のキャラ付けではあるものの、前例はいくらでもありますし、成長という分かりやすいドラマを生むこともできます。

 展開への納得感は、正直放り捨てても問題ないと思います。「俺だけチート」がこれだけもてはやされる時代なので、売り上げだけ考えるならどうでもいいことなのではないかなと。それでもあえてわざわざ考えるなら、作中におけるルールと現実における思考が一致すること、だと思います。

 例えばの話、ステータス数値やスキルがある世界では、チンピラは真っ先にステータス数値や保有スキルを叫んで相手を威圧すると思います。まるで『魔剣伝説』ですね。数値があったら強弱は一発で分かるので、少年漫画のような「チビでガキだが実力者」などというものは存在しません。脳死でテンプレ盗用する人に言っても無駄だろうとは思いますが、数字が分かるなら数字が分からないという展開なんてあり得ないんですよね……数字がある世界で数字以外のことをやってる作品だと『ドラたま』とかありましたっけ。いちおう「数値の規定内に収まる行動ができなくなるよう、スキル・行動関連部位を壊す」という試みはあってしかるべきだと思います。腕も剣もないし何も振れないのにソードスラッシュしてくる敵、いそうだけど。

 常識的な行動ができなかったり、当然そうなるであろうことを予測していなかったりする作者については「基準未達」として考えるしかないので、そういった人々については「知らん」としか言いようがないです。現在の業界人の三割以上はこういった人だと考えていますが……実例を挙げるまでもなくいくらでも転がっていますので、カクヨムやなろうのランキングを上からざっと見てみてはいかがでしょうか。書籍化作家やポイントがたくさん付いてる作品がとくにおすすめ。


 読後感という概念については、ウェブ上だとあまり考える機会がありません。一話ごとのそれはありますが、章ごとのお話が明確に切れていなかったり、ときどきで考えた展開をそのまま入れたりしており、区切りがちゃんと付いていないことが多いからですね。実際には、極端に短い区切りでカタルシスを付けまくる大先生もいるので、私が考えているよりは大事そうだと感じます。

 私見ですが、ここらあたりは特撮の評判を参考にするのがいいんじゃないかなと思っています。『仮面ライダー』シリーズでも一話・二話完結だと見やすくて、ワンクールでようやく進むような話だと放送中の評判が死ぬほど悪かったり「一気に追うと楽しい」と擁護になっていない擁護をされたりします。リアタイ勢がいちばん熱心な顧客だと思いますし、特撮をおもちゃのCMだと割り切るなら、新品を早めに買ってもらわないとなんですが……いいのかそれ。

 短いスパンでカタルシスを付けながら、本筋の部分はちょっと進めるかヒントを配置する、という井上敏樹先生の脚本スタイルが、かなり参考にできそうだなと感じています。参考に観るなら、『龍騎』や『ファイズ』、直近の『ドンブラザーズ』なら入りやすいかな? ひとつ薦めるとしたら確実に『龍騎』……サブライターですけど。

 カタルシスをささっと味わってもらうか、もしくは大きなプロットをきっちり練るかの二択になるとは思いますが、溜め回は少ない方がいいです(実体験)。なろうで何百話も連載していましたが、美少女が登場したり新装備お披露目だったりがかなり伸びる印象で、溜め回は露骨にPVが下がっていました。文字通り、読後感が良くなかったのだと思われます。




 おそらくは四百から五百を超える、自分の体重に数倍するライトノベルを読んできた私ですが、そこから得た学びとしてもっとも大きいものは、「この業界に入っても利にはならない」ということですね。創作論語っといていまさらネガキャンか、と怪訝な目で見る人もいらっしゃるかもしれませんが、結果から見る限りラノベ作家の寿命は三年保てばまとも、五年や十年はまず生き残れないし、出している冊数から見ても利益になっているようには見えません。いつだったか「一冊出せば五十万くらいになる」だとか言ってる人がいましたが、その人も今は潰れてますしね。

 一冊=五十万円と考えたとしても、原稿執筆から発売まで何か月もかかりますから、三か月に一冊とかでも早めのペースだと聞きます。だとすると年収二百万円ですか。いちおう暮らせるけど課金とか恋愛とかやめようかなってくらいの、かなり厳しい額ですね……というのは常識的に数字だけ見て考えたときの話であって、私が実際に見た事例はもっとすごいものでした。

 十年選手なのに三巻以上出していない、だとか。一巻打ち切りから四年越しに新刊を出したけどトレンドも四年前に置いてけぼり、だとか。二か月以内に打ち切りが決まったことをあとがきで報告する(同一の作者で二回あった)、だとか。見ていて心が痛くなるような事例をたくさん見てきました、本当につらかったです。あえて飛び込んだ場所であっても、だからと文句を言わないのは難しいものですね。クソゲーハンターと同じ水準に立てる日は来るのでしょうか。


 期待が持てない、集中できない、オチがつまらないとなると確かに面白い本にはならないんだろうなと思います。実例を挙げられる時点で業界が心配になりますが……。ワナビとしていろいろ切り捨ててここまでやってきた私にも、そういった終わりは近付いてきているんでしょうか。あー俺もお金もらってレビューしてぇなー(クソニート)。冗談はともかく、まだまだ研究は続けていかなければいけないようです。

 K社が母体のサイトでK社の作品をレビューしたらどうなるか、試してみるのもいいかもしれませんね。怖いからやらないけど。

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