第4話

 エレベーターはチンという音とともに停止し、それと合わせたように扉が開いた。開いた先は変わり映えしない無機質な白い廊下だ。

 先に降りたアルに後をついて廊下を歩いてく。エレベーターからは外が見えたが、なぜか廊下には窓がない。そういえば上がってくる前も窓はなかった。そういう建物なのだろうか。

 なにもない廊下をアルについて歩いていると、突き当りで大きな扉にぶつかった。ここが目的地みたいだ。

 アルは足を止めると、小さく深呼吸をした。そして意を決したように扉を控えめにノックした。

『————入っていいぞ』

 扉の奥から返事が聞こえると、静かに扉を開いた。

「失礼します」

「しっ、しつれいします?」

 アルが挨拶をして部屋に入っていったので、同じように部屋に入る。

 中は書斎のようで、中央には書類の積みあがった大きな机、その奥には女性が一人座っている。着ているジャージは上下おそろいでくたくた。長い金髪はぼさぼさで、その下で非常に疲れた顔をしていた。書類の山に囲まれているということは、この部屋の主なのだろう。

「師匠、例の異能者連れてきましたよ」

「……ご苦労」

 アルが声をかけると、師匠と呼ばれた女性は疲れた顔で手を振って応えた。師匠とアルは呼んだがそう呼ばれるにはさすがに若すぎるように感じた。いくら疲れた顔をしているといっても三十代前半がいいところだろう。それにこの人を師と仰ぐのは少し、というかだいぶ頼りない。

「おい、お前」

「えっ?俺ですか……?」

「————お前、今失礼なこと考えただろ」

「!?」

 急にオレを指さして心を読んだようなことを言われたものだから、ドキリとしてうまく取り繕えなかった。それを見て

「やっぱり、なっ!」

 挙げていた右手でこちらに向けてデコピンをした。瞬間、額に強烈な衝撃が襲った。一点集中のあまりの衝撃に後ろへひっくり返った。

「~~~っ」

「不合格」

 何が起こったかわからないまま額を抑えながら呻くオレを指さして、謎の合否判決が下された。なにからなにまでわからず、全く状況がつかめない。

「師匠、それはないですよ。ただでさえ人手不足なんですから。これでもそこそこできる異能者なんですよ。それに師匠がそんな格好してるから————いでっ」

 フォローに入ったのだろうアルも同じように地面に転がされてしまった。

「こんな格好で悪かったな、馬鹿弟子。まあ、人手不足はそうだからな、仕方ない妥協で雇ってやるとするか」

 なんだかよくわからないが、師匠とやらが一人納得したような雰囲気を出した。巻き込まれたオレは全く納得もできてないし、理解もできていないのだが。

「とかいって、最初から不合格にするつもりなんて————ギブ!ギブ!ギブだから!」

 起き上がって減らず口を叩くアルに対して、今度はなんらかの力で締めあげているらしく、数センチほど浮かび上がると締めあげられているように体を縮こまらせた。

 そうやってこの二人が戯れているおかげで話の中心になるべきだろうオレは蚊帳の外で話が全くつかめていない。結局ほとんど説明もされていないし。

「すみませーん、話がよくわかんないんですが……」

 いい加減ボコボコにされてまでこんなところに連れてこられた理由を聞きたくなって声を上げた。二人ともそれでようやく思い出したみたいにこちらを見ると、

「おい、アル。何も話してないのか」

「そりゃそうでしょ。師匠が話すって聞いて連れてきたんですから」

 アルの回答にあーっととぼけたような声を出すと、

「よし!じゃあお前は今から私の弟子、違うな、奴隷?いや下僕?……なんにせよ、私の下で働け!今日からお前もイレギュラーハンターだ!」

「はい?」

「断るなんてもってのほか、逃げだそうとしてもわかってるだろうな?」

 ぎゅうっと右手を握ると、アルが声にならない悲鳴を上げた。これは脅しだ。こうなりたくなかったら、言うことを聞けと。最初は弟子と言っていたのに。どんどん位が下がっていったのは体裁なんて気にしていない証拠だ。断れば本当にやられる。となれば、返答は一つしかなかった。

「————はい」

 喉を締めあげて無理やり出した返答に、彼女はにやりと笑った。

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