第16話

 刀を抜き、降り注ぐ屑鉄を切り裂きながら地面を走って進む。魔力切れで崩れ始めていても、アイゼンのいる場所が一番崩れるのが遅いはずだ。そこを見極める。

 手と頭が崩れ、残っているのは胴体だけだ。あの太い胴体のどこかにアイゼンがいる。そしてあの胴体が崩れてしまえばそのままアイゼンは生き埋めだ。だが、どこにいる。あの鉄の胴体からアイゼンを見つけるのは至難の業だ。変なところをぶち抜けば、その反動でもろくなった胴体は崩れてしまう。チャンスは一回だけしかない。

「おい、犬!どこにいるか、わからないのか。ほら、匂いとか気配とかで」

「わかれば苦労しねぇよ!」

「役立たず!」

 シリウスがわからないとなると一か八かぶち抜くしかないが、どうする?万が一、外せば大変なことになる。慎重にやりたいがもう時間もあまりない。

「アイゼンはそこ!胴体の中心!」

 後ろにいたエリーゼの声が鉄の雨を切り裂き、俺たちのもとへと届いた。俺達ではわからなかったが、アイゼンと深い関係であるエリーゼはなにか感じ取ったようだ。

「犬!コンビネーションパターンDだ!」

「えっ?……パターンD?」

「もう!ほら、踏み台のやつだよ。全力でやってくれ!!」

「アレか!分かった!」

 アホなシリウスに作戦を伝えると、全力で下がり巨人から距離を取る。俺と巨人の間にシリウスが両手を組んで構えたのを確認するとそこに向かって全速力で走る。

 歩幅を合わせてシリウスの組んだ手の上に足を乗せ、シリウスが俺を投げる勢いに合わせて跳んだ。

「行けぇえええええっ!」

 俺の全力ジャンプにシリウスの獣化の力も使った発射台。跳躍する俺の体はまるで弾丸のような速度で巨人の胴体の中心、エリーゼの指さしたところに向かって飛翔した。

「うおおおおおっ!」

 巨人の胴体を刀を振るい切り裂き抉っていく。その最中でもどこかにいるはずのアイゼンを傷つけないために神経を尖らせて一太刀一太刀を振るう。

 胴体のちょうど中心くらいになったところで急に切る感触が軽くなった。もう一太刀加えると壁が崩れ、小さな空間が現れた。

 呼吸をするための空間だろうか。鉄で囲まれた円形の部屋が胴体には存在していた。そこの中心でアイゼンは手足を鉄に同化させ、磔のような体勢でこの巨人を制御していたようだ。

「助けに来た!ここにいたらこれに押しつぶされちまうぞ!」

「……てめぇ、……なんで」

「言っただろ、俺はお前らを守るために来たって」

 アイゼンに声をかけるが反応は薄い。魔力不足のせいで意識がもうろうとしているようだ。この状態では自力で動くのは難しいだろう。

「おい、ちょっと手荒いかもしれないが助けるためだ勘弁してくれよ」

 同化している部分を切り裂いて鉄の巨人からアイゼンの体を切り離す。すると、その瞬間に最後の支えだったアイゼンの異能の力がなくなり崩れる速度が加速した。

 アイゼンの体を背中に担ぎ大急ぎで開けた穴を逆戻りする。戻っていく間も頭上から鉄の雨が降り注ぐが、両手が埋まっているので躱しようもなく無理やり突き進む。

 降ってきた鉄が当たって、頭やら肩やら体中が痛いがここで立ち止まることはできない。



「おい!犬、キャッチ!」

「あっ?」

 出口を勢いのままに飛び出すと、着地は下にいたシリウスに任せる。

 一瞬、完全に気を抜いたアホ面が見えたが、瞬時に異能を発動して獣の力を引き出すと、俺たちを受け止める体勢に入った。

 受け止め体勢の出来たシリウスのところへ自由落下で吸い込まれるようにアイゼンを背中に乗せたまま飛び込んだ。

 ズサーと情けない音を立てながら、受け止めたシリウスも巻き込んで地面を転がった。

「……いてぇな、おい」

「お前のキャッチが下手糞だからだろ」

「なんでもいいから早くどけよ」

 一番下で男二人の下敷きになっていたシリウスが文句交じりに上に乗っていた俺たちをどかした。

 どかされた勢いで見えた後ろにはもう巨人の姿はなく、ただの鉄くずの山が築きあがっていた。

「……何とか終わったか」

「ああ。————なあ、アル。お前、頭に刺さってるぞ」

「えっ?」

 俺の頭にシリウスがおもむろに手をやったかと思うと、何かが頭から抜ける感覚とともに、温かい液体が頭から滴り、視界を赤く染め上げた。

 覚えているのは、シリウスが血に染まった鉄片を俺に見せたことと

「————アイゼン、アイゼン!」

 涙ながらに駆け寄ってくるエリーゼの声。

 そこで俺の意識は途切れた。

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