第12話
『おい、アル。捕まえたぜ、鉄集めの小僧ども』
「わかった。そいつらからアイゼンのいる場所を聞き出しておいてくれ。すぐに合流する」
シリウスとの通話を終了すると着替えるために一旦端末を置く。
見張りをシリウスがしてくれたおかげで魔力も満タン、体の調子も悪くない。これなら万全の態勢でアイゼンと戦える。
荷物の中から、真っ黒な特殊制服を出す。全身真っ黒なんてダサいのであんまり着たくないのだが、対魔術性能やなんかが高く作られているので戦闘の際にはできるだけ着るようにしている。危険は減らせることに越したことはないし。……ちょっとダサいけど。
中二病じゃないんだから、真っ黒なんてほんとない。マジでない。なんで制服ってついてるのにブーツにコートなの?一体いつの時代の中二病だよ。言いたくはないが、師匠は趣味が悪い。大ぴらに文句なんて言ったら殺されるから言わないけど。
特殊制服に着替えると船を出て三人組の隠れ家へと急ぐ。まだ日が高いので、真っ黒な恰好は太陽に照らされてよく目立つ。歩いているだけでも覇気のない目をしたやつらにめちゃめちゃ見られる。————恥ずかしい。
だんだんと顔が熱くなってくる。顔の温度が上がってくるにつれて同期するように足の回転も速くなる。
「はぁはぁはぁ、ッ」
「お前なんでそんな汗だくなんだよ」
隠れ家に着くころには汗だくだくのだらだらになっていた。そんな姿に隠れ家で待っていたシリウスは怪訝な顔をするが無視をする。
なんでこいつは平然とこの真っ黒着ていられるんだろう?師匠と趣味が一緒なのか?
「なっ、なんでもいいだろ。で、聞き出せたのかよ」
「あったりまえだろ。おい、どこだ?」
なんて質問をするふりをして縛り上げたガキどもをいじめていた。今時、人を寝かせて積み上げてその上に座るなんて趣味が悪い。やっぱ師匠と趣味が近いんだろうな。あの人そういうの好きそうだし。
「……街の南、さびれた廃工場です。あうっ」
「よくわからん。お前を連れて行けばいいか」
意識のあった一人の縄をさらに締め上げて、力技で立ち上がらせた。ほんとに野蛮人じゃねえか。やっぱり人間じゃなくて犬だな。
「……そいつに案内してもらうんだな」
「早く歩け!いくぞ!」
子供を縛り上げて括り付けた縄をリードのようにしているさまは、どうみても悪役だ。ツッコむのはキリがないのでもう諦めた。
シリウスが捕まえた残りのガキを置いて部屋を出ると記憶にある三色頭とその後ろに隠れるようにエリーゼが立っていた
「エリーゼ!?お前ら、なんでエリーゼを連れてきた!」
「すみません、兄貴。でも、昨日の話聞いたら、エリーゼちゃんのいないところで全部終わらせるのは違うと思って。エリーゼちゃんも連れてってくれませんか?……この通りです」
三色の頭が地面にきれいに並んだ。
どうしたもんかと頭をかいた。
エリーゼを連れて行ってもいいが、アイゼンを説得するのはたぶん無理だ。また戦いになるのは間違いない。それもかなり手荒い形で制圧することになる。その様子をエリーゼに見せるのはさすがに気が引けた。
「アル、お願い。私もアイゼンを止めたいの。一緒に行かせて」
まっすぐにこちらを見て、エリーゼは懇願した。見つめてくる目には決意が宿っていた。
彼女は俺たちが向かう先で何が起こるかまでわかっている。そのうえで一緒に行きたいと言っているのだ。そこまでわかっているのなら断るのは違う気がする。
「わかった。でも、絶対にこいつの横から離れないこと……それが条件だ。いいよな、犬」
「お前がいいならそれでいいよ。どうせオレは戦わないしな」
「ありがとう!アル」
シリウスの適当で雑な返事を聞いてエリーゼは喜びの声を上げた。
あとは地面に転がった三つの頭に目を落とす。
「お前ら、ここまでエリーゼを連れてきてくれてありがとうな。あとは俺たちが引き受けるからお前らは安全なとこで待っててくれ」
「……わかったっす。俺らがついて行っても足手まといになるだけっすから」
三人を起き上がらせると、プリンが心苦しそうな声でつぶやいた。
彼らも自分たちの力ではこの先が危険ということが身に染みてわかっている。だから無理についてこようとはしない。その判断ができるだけでも十分だ。それに残った三人にしかできないこともある。
「そうだ、部屋の中にアイゼンの手下が捕まえてあるから、俺たちが出て少し経ったら逃がしてやってくれ」
「わかりました。皆さん、ご武運を」
アイゼンのもとへ向かう俺たちを、赤頭を筆頭に慣れていない下手糞な敬礼で見送った。
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