第10話
「ほんとにそんな異能なのか?だから鉄を集めてたと。だけど、そんなことしてどうなるんだ?」
「わからん。その先に目的があるのはたしかなんだが、そこまでは考えつかなかった。わかるとするなら……」
二人でエリーゼの眠っている船室の方へ視線を送る。
俺が目覚めてからかれこれ一時間くらい食堂でシリウスと食事をしながら作戦会議をしているが、エリーゼはまだ目覚めない。
エリーゼのいる船室の前には三人組の誰かがいるようにしているので、目が覚めればこちらに伝達してくれるはずだが、眠り続けているので少し心配になってきた。
「わからないことを考えてもしょうがない。先に明日の話をしよう。あいつらが鉄を集めているなら、どこかにそれをまとめておいてあるはずだ」
「鉄を集めるのが目的なら、その鉄が置いてある場所がアイゼンたちのアジトってことか」
「だから、まずはそこを探す。今日の時点であの三人組の隠れ家に鉄がいっぱいあるって噂は流してもらってある。そこで待ってればすぐに手下のガキどもが捕まるはずだ」
「わかった。そこにはオレが行く。お前はここでエリーゼが起きるまで休んでろ。ただでさえお前ら魔術師は燃費悪いんだから。多少なりとも節約しとけ。それにアイゼンがこの船を襲いに来ないとも限らないしな」
その言葉はシリウスなりの気遣いだったのかもしれない。すぐに逃げることになったから魔力なんてほとんど使っていないし、きちんとアイゼンの追跡をまいたのを確認してから戻ってきたから、手当たり次第に襲わない限りここが襲われる可能性なんてないと思う。そんなこと言わなくてもわかってそうだから、気遣いと判断したのだがこいつにそんなことできそうにもないので勘違いだろう。
「よろしく頼む。場所は三人の誰かしらに案内してもらえ」
シリウスを送り出すと、食堂で一人になった。壁に掛けられた時計は七時を少し過ぎたところを指している。
寝るには時間的に早いし、食事は今とり終わったところだ。この船の中には娯楽があるわけでもないし、アイゼンのこともあるので変に出歩くわけにもいかない。ありていに言えば暇だ。
エリーゼの寝ている船室の前を見てみるが、まだ起きていないようで扉を背もたれに青頭が寝ている。
シャワーでも浴びて少しゆっくりするか。
自分の船室に戻って、シャワーを浴びるために服を脱ぎ、巻かれていた包帯をほどく。鏡に映った傷跡だらけの体を見てみるが、アイゼンに負わされた傷は体のどこを見ても残っていない。改めてエリーゼの異能に感心した。
昔、出会った治癒の異能の少女は大きな傷を治せばすぐに魔力切れになっていた。しかもそれでも完全に治しきることはできず、生傷になるのがほとんどだった。それに比べればエリーゼは異能者としてはあの少女よりも数段上だろう。俺の体に残った傷跡がその証拠だ。
簡易シャワーで体を洗っているとふいに、ドンドンドンと船室の扉が激しくたたかれた。
「はーい、なんかあったか?」
シャワーを止め、シャワー室の扉から頭だけ出すと船室の扉の隙間から恐る恐る青頭が顔を覗かしていた。
「エリーゼちゃん、起きたんで呼びに来ました!」
「わかった。すぐに行くから。エリーゼのとこ居てくれ」
わかりました!と勢いよく返事をして青頭は走り去っていった。
すぐ行くと言ったものの、まだ体を洗い終わったところだったのでもう少しくらい浴びていてもいいだろ。
シャンプーまでしっかりした後、ドライヤーでしっかり髪を乾かしてから部屋を出た。火照った体で廊下を歩いていると、なんだか船の中が騒がしい。急いで声の方へかけていくと騒ぎの源はエリーゼのいる船室のようだった。
「おい、うるさいぞ。なにやってんだ?」
ノックもなしに船室に入ると、ベッドに横たわるエリーゼを馬鹿三人が囲ってトランプに興じていた。
「あっ!兄貴、遅いっすよ。」
「お前ら何やってんだよ」
「えっ?トランプっす」
「そんなこと見ればわかるだろ!なんでここでやってるんだよ!?」
俺が問い詰めると、馬鹿三人は顔を見合わせて
「だって、エリーゼちゃんのとこ居てって言われたから」
「だからって、一緒に混ぜて遊べなんて言ってねぇよ!……エリーゼと話するから、全員ちょっと部屋から出ろ」
えーっと文句を言い始める三人組を押し出して、部屋から押し出す。
「ほら、そこで続きやってていいから」
残されていたトランプをまとめて投げ渡し、恨めしそうにこちらを見る三人をしり目に船室の扉を閉める。
「アル、別によかったのに」
「いや、ちょっあいつらには聞かせられない質問があってな」
三人がいなくなったことで開いたベッド横の椅子に座り、エリーゼの方に向きなおす。
俺が真剣な表情をしたものだから、エリーゼも顔をこわばらせた。
「アイゼンについて聞きたいんだ。……アイゼンはなんであんなに必死でお前を守ろうとするんだ?あの様子は普通じゃない。昔、何があった?」
今まで見てきた中でもアイゼンの抵抗は異常だ。普通はエリーゼのようにこちらも同じように力を持っていると認識すると多少なりとも警戒を解いてくれるものなのだが、アイゼンはさらに警戒を強めたように感じた。それにはなにか理由があるんじゃないかと感じた。
「……ちょっと長い話になるけど、いい?」
「ああ、……いくらでも聞くよ」
エリーゼは俺の返事に安心するとゆっくりと自分たちの過去を語り始めた。
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