第7話
タッタッタッタという鉄の階段を駆け上がる音で目を覚ました。あまりにも暇すぎて椅子の上で眠ってしまっていたようだ。
上ってくる足音はだんだんと近くなり、
「兄貴!見つけました!早く来てくだせぇ」
プリンが肩で息をしながら、部屋に転がり込んできた。
「ああ、わかった。すぐに準備する」
寝ぼけた頭で壁に立てかけていた荷物を背負うと、二人で部屋を出た。
すでに疲れ切っているプリンを置いて行かないようにして、ペースを合わせながら残りの二人がいる場所を目指した。途中でプリンがへばったので最終的に俺が抱えて走ることになったのは内緒だ。
「で、どこにいるんだ」
「あそこです」
コンクリートで囲まれた路地の角から四人で頭を並べて、さらに奥の路地裏を覗き込む。視線の先では黒いゴシックなロリータを着た銀髪の少女が一人で遊んでいるようだった。
黒のフリフリってあの格好のことか。この街じゃあ、あの格好は見ることないだろうから印象には残るよな。
「どうする。誰が声かける?まず赤は通報案件だから絶対ダメ」
「んなっ?!」
「次にプリンと青は馬鹿だから、危なそうだからナシだな」
「「えぇっ!?」」
「となると、俺が声かけるしかないか」
俺が声をかけに行くため一歩前に出ようとすると、ほかの三人に体をつかまれた。
「「「ちょっと待った!」」」
「なんで俺だと通報案件なんですか!?俺、フェミニストなんで安全ですよ!そこの馬鹿二人よりは!」
「馬鹿ってなんだ!馬鹿って!……ほら馬鹿だから邪なことまで考えついてないから。誘拐して金ふんだくろうとか思ってないから」
「やっぱりこいつら信用ならないんで俺が!」
赤プリン青と各々が騒がしく主張を始めた。こうなるから俺が行こうとしたのに。邪な奴しかいないんだよ、どいつもこいつも。というか、ずっと俺の体を掴んだまんまだから、さっきから引っ張られて痛いんだが。
「だーッ!いい加減離せ!気づかれちまうだろうが!」
体を振って掴まれている手を引きはがし、少女が遊んでいた方向へと逃げる。だが、そこにはもう少女の姿はなかった。
マジかよ。気づかれて逃げられた。
ショックで頭を抱えて立ちすくんだ。
「ふふっ。お兄さんたち面白いね」
野郎どもの野太い罵声の中に、ふいにかわいらしい声が聞こえた。振り返るといつのまにか俺たちの背後にさきほどの少女がにこにこと笑顔を浮かべて立っていた。
いつのまに!?そんな気配はなかったぞ。これは思ったよりも危険な相手かもしれない。
なにかあったときに備えて、荷物に手を添える。中の武器がいつでも取り出せるようにして、少女と向き合う。
「そうかな?そんなに面白かった?」
「はい、とっても」
そう口にした少女はまたくすりと笑った。
少女の言葉に悪意は感じられない。純粋にあの三人の罵りあいを面白がっているようだ。それはそれで心配になってしまうが、今は彼女が敵なのかどうかを見極めるのが優先だ。気を抜かず、慎重に言葉を選んで話を続ける。
「君は、……なんでこんなところで一人で遊んでいたんだ?こんな路地裏で一人で遊んでるなんて危なくないか?」
「そ、それは……。アイゼンが外で遊んじゃダメだって。けど、外で遊びたくて抜け出してきたの。でも、一緒に遊ぶ友達なんていないから一人で遊んでたの」
そう言ってスカートの裾を握りしめてうつむいた。その小さく丸まった姿は、ひどく悲しくて、寂しそうだった。
昔、同じような姿を見たことがある。
北区の吹雪の中、レンガでできた大きな城の一室からきれいな黒髪の少女がこちらを見ていた。
そのきれいな瞳は外の世界を寂しそうにただ見つめていた。
今考えればその時の彼女は諦めていたんだと思う。気候さえ変えてしまえるほど強大な力を持った自分は外になど出られないと。外に出れば人を傷つけてしまうから。
それを不憫に思った馬鹿がいた。その馬鹿が何をしたかというと
「なあ、俺たちと一緒に遊ばないか」
そうやって窓から外をのぞく少女に声をかけたんだ。
「うん!」
あの日の彼女も今目の前にいる少女と同じように笑ったのを今でも忘れられない。
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