第6話

 案内されてついたのは、路地裏のさらに裏。よそ者では絶対来られないようなコンクリートの森の奥地だった。

「この辺りか?」

「そうっす。ただ昨日のことなんでさすがにもういないみたいっすね」

 そんなこと言わなくてもわかっている。こんなコンクリートの建物の合間の壁から配管が飛び出してるようなところに、女の子がいたらすぐにわかる。ここに来たのは、それが目的じゃない。異能者が力を使えば、必ず痕跡が残る。その痕跡からあわよくばその子の行き先が探れないかを調べに来たのだ。

 周囲にはかすかだが魔力の痕跡が残っている。これは異能を使った形跡とみて間違いない。こいつらが出会った少女はやはり異能者だ。だが、ここから追うにしても魔力の痕跡が微量すぎてどこへ向かったかまではさすがにわからない。

「なあ、その子。この辺じゃ見ない格好をしてたってことは、この街の人間じゃないってことか?」

「そうすね。あんな黒いフリフリの格好は見たことないっす」

 プリン頭が元気に答えると、隣にいた取り巻きの真っ赤な頭のやつが

「たぶんなんですけど、昨日話した二人組の片割れじゃないですかね。あんなかわいい子いたら、この街じゃ全く知らないなんてことにはならないでしょうし」

 なんてちょっと鋭いことを言ったと思ったら、もう一人の取り巻きの青頭が茶化しに入り

「お前ロリコンだもんな。あんな子いたらすぐに手出してそうだもんなぁ」

「俺はロリコンじゃねえよ。フェミニスト!女性をみんな尊んでるだけだ。大事にしてるんだよ」

 レベルの低い口論が始まってしまった。この二人の口論はどうでもいいが、赤頭の言ったことは気になる。

 もしも二人組の片割れが治癒の異能者となると抵抗されて戦いになった際に、面倒なことになるかもしれない。殴ったそばから回復されるなんてやられたら面倒なことこの上ない。できれば、別であってほしい。いや、別なら別で異能者が三人いることになるので、もっと面倒なことになる。

 揉めてる赤と青の頭に一発ずつ入れて落ち着かせると話を続ける。

「お前のことはどうでもいいんだよ。結局お前らはその子のことよく知らないんだな」

「「はい」」

 痛みの走る頭を抱えてうなだれる二人をよそにプリンの方へと話を振る。

「とりあえずお前らはその子のことを探してくれ。顔知ってるお前らの方が探しやすいだろうからな」

「えっ?協力するなんて一言も……」

「これは前金だ。ちゃんと見つけてこれば追加してやるから」

「わかりやした、兄貴!俺たち三人、きっちり協力させていただくっす」

 一瞬、拒否の言葉が出そうになったのにポケットから適当に掴み出したコインを握らせたら、すぐさまこの変わりよう、ほんとに現金な奴だ。念のため、チップを持っといて正解だった。とことんこき使ってやろう。

「俺は変な二人組について調べるから、なんかあったら港にとまってる貨物船の船員にこれを見せて連絡してもらえ」

 そう言ってプリンに星座の描いてあるカードを渡す。

 渡されたプリンはなんなのかわかっておらず不思議そうな顔をしてカードの裏表を確認している。

 このカードは、イレギュラーハンター全員が持っている便利なカードだ。持ち主によって書いてある絵柄が違い、俺の場合は牛飼い座が描かれている。このカードを持っていることで、俺の協力者であることの証明ができる。そのうえ仕事が終われば、魔術によって俺に関する記憶を消せる機能まで付いた便利な代物だ。

 治癒の異能者探しについてはこの三人に任せておけば大丈夫だろう。いくら異能者といえど、何の力も持っていない人間に危害を加えるとは思えないし、初めて会ったプリンにも異能をつかったくらいだ。そういう気質ではないのは、わかりきっている。

 問題は変な二人組の方だ。目撃情報もなく、探すのには骨が折れそうだ。何かいい案があればいいのだが。

「ああ、そうだ。お前ら、この街のどっかに鉄くずとか使ってない鉄が残ってるところってないのか?手下のガキどもをおびき出すのに使いたいんだが」

「うーん、……たぶんめぼしいのは全部取られきってると思います。あいつら街中を漁ってたんで」

 ようやく痛みが引いたのか、青頭が元気よく答えた。やっぱりそうだよなぁと頭を抱えてると

「じゃあ俺たちが女の子探ししながら、ここに鉄がいっぱいあるって噂を流せばいいんじゃないですか?」

 今度は復活した赤頭がそんな提案をしてきた。

 それなら鉄を集める必要もないし、俺はそこで来るのを待ってるだけで済む。なかなかいい作戦なんじゃないだろうか。特に俺があんまり何もせず待ってればいいってところが。

「いいな、それ。で、どこに鉄があるって噂を流すんだ?」

「ちょうど少し前まで俺たちが隠れ家にしてたところがあるんでそこがいいじゃないかと。そこならなんかあった時に報告もしやすいですし、あいつらも他人の縄張りなら探しに来てないはずなんで」

「わかった。じゃあ場所を教えてくれ」

「えっと、場所は……」

 赤頭と話しているとすらすら話が進む。変な髪色をしているがこいつはほかの二人より頭が回るようだ。こいつを協力者にしたのは当たりだったといえるだろう。

 作戦会議が終わると三人組と別れて、船に荷物を取りに戻ってから指定された場所に移動した。


 三人組に指定された隠れ家は見るからに建設途中で放棄されたコンクリートむき出しの建物だった。一応四階建てのようなのだが、四階に屋根はなく、屋上のような状態になっていた。

 歩くたびにきしむさび付いた鉄の階段を上がり、三階にある三人組が使っていた部屋に向かう。

 階段を上りながらほかの部屋も見ていくが、誰も管理していないおかげで荒れ果てており、どの部屋も使えるような状態ではなかった。というかなんで二階の部屋は大木が突き刺さっているんだ?どうやったらコンクリートの壁をぶち抜いてあんな大木が刺さるんだよ。

 三階の真ん中、下手糞なドクロが描かれた扉があの三人組が使っていたお部屋だ。扉に手をかけるが鍵がかかっていて開かない。だが、それもちゃんとあの赤頭から聞いている。扉の右に開いた壁の穴から部屋の中に腕を入れ、上側の壁に杭でひっかけてある鍵を取る。取り出した変な形の鍵を指すと、ぎいぎいときしみながら扉が開いた。

 部屋の中は打ちっぱなしのコンクリートにぼろぼろのカーペットといすが数脚置いてあるだけの何とも殺風景なものだった。

 とりあえず荷物を壁に立てかけて椅子をひっつかんで腰を掛ける。

 座りながら部屋の中をもう一回見渡すが、別に光景は変わることはない。なにもない殺風景な部屋だ。こんなところで手下のガキどもが噂を聞いて現れるのを待たなくてはいけない。船に戻った時に暇つぶしできるものでも持ってこればよかったな、なんて考えつつ人がやってくるのを待った。

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