第5話

 色々歩き回っているうちに日が落ちてしまったので、宿代わりにしている船に戻って来た。本当なら調査員の家や安全なのが確認できた宿に泊まるのだが、今回は調査員不在で安全も確立できなかったので、貨物船に偽装した船で生活する羽目になってしまった。まあ、そのおかげで最低限の人間しかいない広い船を悠々自適に使えるのだから、ポジティブに考えよう。

「それにしてもどうしたもんかな」

 船に積まれていた味気ない簡易食をつまみながら考える。

 今日手に入った情報は、あのプリン頭から聞き出せた妙な二人組のことくらいなもので、特にめぼしいものはなかった。

 どうにもこの街は路地裏が多くて人探しの難度が高い。土地勘のある人間の協力が欲しいところだが、今日一日では協力してくれそうな人は見つけられなかった。どいつもこいつも同じように怪訝な顔で俺をにらんできてたからな。あの三人組が一番話ができるなんて思ってもみなかった。

 手掛かりになりそうなのは鉄を集めているという情報。今日のところは手下のガキどもが見つけられなかった。が、見つからないのならおびき寄せればいい。集めているものをこちらから提供してやれば勝手に集まってくるはずだ。船の中にぶっ壊していいコンテナあるかな?

 机の上に適当に置いてあった端末からブルブルッと震えた。

 ぴかぴかと端末の上部の小さなライドが点滅しているあたり、なにかメッセージが来たようだ。依頼時の連絡用で持たされている端末なので、届いたのは仕事関係のものなのは間違いない。別に無視しても構わない気がしたが、一応念のために確認はしておこう。

『アル、ご苦労様。報告は見ました。

 異能者が二人以上いる可能性があると書いてあったので、追加の人員を派遣することにしました。

 ただまだ新人さんなので扱いには気を付けてね(笑)到着は明後日の予定なので、ちゃんと新人教育もお願いね(笑)

 あなたの師匠より(笑)』

「なんだよ、このメール」

 あまりに頭が痛くなるような文面が目に入って、思わず端末を投げ捨てた。

 文面から察するに確実にふざけていた。となれば、追加で来る新人とやらは絶対にまともなヤツではない。あのメールだけでも頭が痛いのに、面倒な新人のことまで考えるとなんだか体までだるくなってきた。

 深く考えると、依頼に身が入らなくなりそうだったが、新人と聞いた瞬間に出てきた顔が嫌でも頭に残って離れてくれなかった。

 うちで一番の新人ってあいつだよな。あいつと組むのは嫌だなぁ。

「はぁあああ」

 長い溜息が人のいない船室でむなしく響いた。


「へあっ?!」

 朝、船の中に壊していいコンテナがなかったので、どうしたもんかと考えながら歩いていると、見たことのあるプリン頭はじめ三色の頭と出会った。

 三人とも俺を見るなり、変な声を上げて硬直してしまった。

 ここで会ったのも何かの縁だ。今回限りの協力者にしようか。一回恐怖を刻み込んでるから言うことは聞くだろうし。

「おい!そこの三人組!ちょっと待て!」

 声をかけると、三人とも恐怖に顔を引きつらせて全速力で逃げだした。


 一分後、色とりどりの頭が地面にへたり込み、汗もかかずに立っている俺に向かって情けない声を出した。

「なっ、なんで追いかけてくんだよぉ。昨日知ってること全部話したじゃないですか」

「お前ら暇だろ。昨日のことでちょっと手伝ってほしいことがあってさ」

 俺としてはできるだけ笑顔で優しく誘ったつもりだったのだが、三人して顔を見合わせると

「ヤバくない?」

「ヤバいよな!?」

「絶対ヤバいよ」

 会議ともいえないほど頭の悪い会話をすると

「「「嫌です!」」」

 きれいに三人で声をそろえて同時に拒否された。

 そのまま手伝ってくれたら多少の謝礼くらいは出そうと思っていたのだが、今の反応でその気も失せた。もう一度体にわからせた方がいいかな。

 指の関節をぽきぽきと鳴らし、それっぽい動きをすると見るからに三人の顔が青ざめていく。両手を前に出してストップのポーズを出しているが、そんなことで止めはしない。と、そこで何か引っかかった。三人とも同じ体勢、同じポーズをしているだけなのに何か小さな違和感があった。

「おい、プリン、指治ってるのか?」

 昨日、勢い余って一本折ってしまったはずなのだが、プリンの手には俺が巻いた下手糞な包帯は巻かれていない。指の骨折なんてすぐに治るものではないし、治っていないならば見てわかるほど腫れているはずで、動かすだけで痛みが走るはずだ。だが、プリンの指は晴れてもいないし、動かしても痛んでいる様子はない。たった一日で骨折が治っているのだ。

「えっ?ああ、これ、昨日治してもらったんっすよ。通りすがりの女の子に」

「治してもらった?」

「昨日お兄さんと別れた後、痛てえ痛てえって歩いてたら、この辺じゃ見ないふりふりの格好した女の子が駆け寄ってきて、ほわぁってなんかやって治してくれたんすよ。なあ」

 プリンがほかの二人に同意を求めるように視線を送ると、二人とも大きくうなずいた。嘘をついているという風には見えないし、本当のことなのだろう。それはそれで不思議だ。

 骨折を治した?しかも通りすがりの女の子がそれをやったなんておかしいことだらけじゃないか。それが本当に本当ならその子は異能者の可能性が高い。それも人の傷を治すことのできる治癒の異能をもっている。治癒の異能は相当希少な異能だ。いろいろな異能者を見てきたが、治癒の異能者を見たのは過去に一人きりだ。

 治癒の魔術だってないわけじゃないが、自分の回復にしか使えず、自然回復力を高める程度の魔術だ。他人にも使えて、回復力も段違いな治癒の異能と比べると不便極まりないものだ。それゆえ治癒の異能は価値が高い。価値を知る者からすれば喉から手が出るほどに。俺が追っている異能者とは能力的に確実に別人だろう。その特性上、治癒の異能者は戦闘力を持たないことが多いからだ。そのせいでまた一つ心配ができた。その子の存在が露見すれば力を利用するために襲われる可能性がある。その前にこちらで保護しなければ。

「それ!どこで見た!?そこへ連れてけ!」

「「「えぇー!!??」」」

「いいから早く」

 逃げつかれて地面でへたっている三人を引きずって、少女と出会った現場に急いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る