第4話
ということで、一日休み一日移動でやってきました某国の港街。……ほんとブラック、うちの会社。
天気は嫌になるほどの快晴。港には俺が乗って来た船以外に止まっておらず、さび付いた倉庫街に打ちっぱなしのコンクリートでできた建物が立ち並んでいるだけなのが何とも寂しい。
街を歩く人々は覇気がなくしおれていて、風に混じるさびた鉄の匂いが鼻についた。一世紀前は、外交が盛んだったおかげでこの街も栄えていたそうだが、今は見る影もなくさびれてしまっている。
このさびれた街のどこかに目的の異能者がいるはずだ。いるはずなんだ。ほんとにいるよね?またハズレじゃないよね?
不安を押し殺しながら、街の中へ足を進める。
まずはなんにしても情報が欲しい。船を降りる前に、もらった資料を再度読み直したが、やっぱり詳しい情報はなく、数年前にマークしてたと言っていたが、能力に容姿、性別すらわからないときたものだから、どうしようもない。
普段は街のどこかに調査員がいて、そこから情報を手に入れるのだが、今回はそれがない。調査中に調査員が襲われてしまい、情報が集まる前に病院送りにされてしまったからだ。だが、その時の痕跡から異能者の関与が濃厚になり、俺が派遣されたという経緯らしい。これは資料に書いてあった。
街にくりだしたはいいものの、ちょっと街の雰囲気がよくない。道の端に座り込んだ人がこちらを不機嫌そうににらんでいる。こちらから近づこうものなら、なにをされるかわからない物々しい雰囲気だ。あきらかに歓迎されていない。
仕事柄、いろいろな街を出入りしているが、こういうさびれた閉塞的な街では外から来た人間を毛嫌いする系統がある。人の出入りが少ないので外の人間が嫌でも目に付くためだ。そういう街では
「おい、兄ちゃん。お前よそ者だな。なんでこんなとこに来たか知らねぇが、金持ってんだろ!?痛い目見たくなかったら金出せよッ!金ッ!」
こういう三下の馬鹿によく絡まれる。
俺に声をかけてきたのは色とりどり別々の色の頭をした三人組。年齢は俺とそれほど変わらないくらいだと思うのだが、短絡的な言動と中心にいる男のアロハシャツとサンダルという大昔のヤンキーのような恰好が頭の悪さを増長させている。
うわぁー、めんどくさっ。
「ワタシ、オカネモッテナイヨ。ユルシテヨ」
「なんだテメェ。よそ者なんだから、金持ってないわけないだろ!適当なこと言うんじゃねぇよ!!こっちに来い!」
さすがに俺の適当なカタコトで逃げられるほど相手も馬鹿ではなかったらしく、すぐさま三人に囲まれて路地裏に連れ込まれてしまった。必要ないからお金なんて持ってきてないんだけどな。
「ここまで来ればいいだろう。上から順番に脱がして金目のもんは全部剥ぎ取れ!」
周囲に誰も見えないほどの路地裏の深くまで来ると、リーダーと思わしきプリン頭が命令をして手下二人が俺の身ぐるみをはがそうとしてくる。だが、俺の体に触れる寸前で
「ぐはぁっ」
「がふぅ」
変な声を上げて地面に倒れこんだ。
「なんだぁ!?何が起こった!」
急に倒れこんだ二人の様子を見てリーダーのプリンが声を上げた。さすがに一瞬のうちに二人が倒されたなんて思ってもいない様子だ。
「オニイサンタチ、ツカレテネチャッタミタイネ」
「お前がなんかやったのか!」
プリンが怒りに任せて突進してくる。
突き出された右こぶしを華麗に避け、がら空きの腹部に一撃。ほかの二人と違い、気絶させないように殴ったが、おかげで普通では味わえない衝撃が腹部を襲っていることだろう。
「ぐおおぉっ」
あまりの衝撃にプリンは背中を丸めて低い声で唸ることしかできなくなっていた。それでも気絶できないのが我ながらたちが悪い。
こいつだけ気絶させなかったのは絡まれた腹いせとしてではなく、きちんと理由がある。
「なあ、プリンの兄ちゃん。聞きたいことがあるんだが、この街で最近ガキどもが集まってなんかしてるらしいんだが、どこで何してるか知らないか?」
「あぁ!?知ってても誰が教えるかよ」
絞り出すようにプリンも声を荒げるが威勢のよさはあっても力強さはない。元々怖くはなかったのだが、こうなると俺が弱い者いじめをしてるみたいで少し気分が悪くなってくる。しかもその返答では知っていると言っているようなものだ。
「じゃあ教えてくれるまで俺と遊ぼうか?」
自分でもわかるほど口元が歪んだ。
「いっでぇええ!……わかった、わかったよぉ。教えるから、もうやめてくれよぉお」
右手の指を三本ほど逆方向に向けると、プリンは耐えきれなくなって絶叫した。ちょっと加減を間違えて人差し指が折れてしまったが、それでもすぐに吐かなかった辺り思ったよりも根性のあるやつだったようだ。
「なら、応急処置してるうちに早く話せ」
「……最近、変な二人組がこの港に現れたんです。俺は見たことはないんですが、背の高い男と十二、三歳くらいの女の子らしいです。怪しげなその二人がここら一帯にいたガキどもを使ってどっかに鉄を集めているようなんです」
「なんで鉄を?」
「さすがに、そこまでは……。けど、ここには廃材がいっぱいあるんで、集めるのは簡単だと思います」
見るからに頭が悪そうなのであまり期待していなかったのだが、思ったよりも理性的なしゃべりでまとまった情報を話してくれた。
プリンの言っていた通り、その二人は明らかに怪しい。資料には二人とは書いていなかったが、あんな情報の薄い資料なのであてにはならない。それよりもガキどもを使って鉄を集めているというのも気になる。目的はわからないが、異能者であると仮定するとなにか異能に関係あるのかもしれない。
「そうか。……と、よし!とりあえずはこれで大丈夫だろう」
一息に包帯を締め上げると、プリンは声にならない悲鳴を上げる。
「……ありがとうございます。……あれ、でもこれあんたのせい……」
涙目でわけのわからないことを言っている。応急処置をしてあげたのだから、感謝くらいしてくれてもいいだろうに。
「知ってることはそれだけか?」
「それだけです。……だから、もう指を折らないでください!」
まるで目の前にいるのが、野蛮人みたいにおびえた目で両手を合わせて懇願された。
そういう趣味があるわけじゃないし、このプリン頭を必要以上に傷つけたいわけではない。聞き出せるのがここまでならこれ以上手を出すつもりもない。
「知ってることがそれだけだったら、もう手は出さねぇよ。そこの二人連れてとっとと帰んな」
「じゃあ!失礼します!……おいお前ら!起きろ。さっさと逃げるぞ」
解放された瞬間、バタバタと二人をたたき起こし、プリン頭達は路地のさらに奥に消えていった。なんだかうるさい連中だった。
「まあいいか」
一人つぶやくと連れてこられた道を逆戻りしてあの三人組に会った道へ帰る。そこから次の情報を求めて町の中を歩き出した。
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