それでも人間の可能性を信じる

前回、悲劇的な場面が続きそこに追い打ちをかけるようなクラスの陰口や無視

りんは諦めた。フェンスを飛び越えて飛ぼうとしたら後ろで大きな声で誰かに見つかった。

誰かと思い、のぞいたらそこには馳くんただ1人で立っていた。


「私がおかしいなんてないよ。みんながおかしいんだよ!」

と、大きな声で言った。

「忘れっちまったのかよ...楽しみを忘れちゃったのかよ...思い出せよ!」

そう言って馳くんは止めようとしているのかな...

「私もう、疲れたの...私がおかしいんだよ。私が狂ってるんだよ。」

もう、何がなんなのか分かんなかった。

心臓の鼓動がどんどん高くなる。

私は怖くない...私は怖くない...

そう自分に言い聞かせた。

私はフェンスをよじ登ろうとした時に下を見てしまった。

それは今まで感じたことのないような恐怖感があってそれと同時に本当に怖くなってしまった。

ほんの1分にも満たない時間の前は消えるなんて怖くない。

絶対行けると思ってたのにいざ下を見てしまったらさっきまでの押し殺してた恐怖心は一気に空中に放たれて私の周りを包む。

包み込まれた瞬間私は空中に投げ出されたかのように屋上側に落ちてしまった。

「あぶない!!」

と、叫び馳くんが全力疾走をする。

馳くんはギリギリであったが私の頭を守ってくれた。

私に男の子が触れたなんて羞恥心は微塵もなかった。

それどころか消えることに失敗したことが大きかった。

私はもう一回フェンスによじ登ろうとする。

しかし、そんな体力は残っていなかった。

少しでも早く楽になりたいのに

その想いだけでまだ、心は登れた。

けど、身体は一切追いつかなかった。

馳くんが後ろから必死に止めようとする。

「やめろ、三島さん!あなたにはまだ未来がある!」

未来?この先の未来を求めて何になるの...

それに三島さんって馴れ馴れしく言わないで

「未来なんて何もないよ!」

私は馳くんに返して腕を振り払ってた。

「お前、消えるんだからいらないデータとか全部消したんだよな!お前が消えた後に家族が全部見るぞ!」

私はその一言にフェンスへよじ登る気が一旦止まった。

いらないデータ...

そっか...消えたらお父さんともう会えないし大好きな絵ももう描けないかもしれない...

大好きなのかも分からないけど

絵は描き続けたいしもう一回だけお父さんに会いたい。

そう思い、私はフェンスを降りてその場に座り込んでしまった。

もう自分は何がしたいのか分からなかった。

お父さんごめんなさい...

私は泣き出した。

その瞬間馳くんの方をちょっと見るとものすごく焦っていた。

「あ、三島さん...あの...俺...」

「ねぇ、馳くん...」

私は泣き目だけど馳くんの方を向く。

「私、もう少しだけ日常の楽しさというのを見つけてくる。迷惑かけてごめんね...ひとつだけ聞いていいかな?馳くん」

私は彼にどうしても聞きたかったことがあった。

「なんでこんな私を助けたの?」

さて、どう返ってくるか...

「たまに屋上の階段でアイデアに詰まったらここで考えてるんだけど今日来たら屋上のドアが開いててふと見たら三島さんがフェンスよじ登ってて...ただ事じゃないなって思って助けたというわけ」

偶然にしては出来すぎているな...

あまりにも出来すぎている。

こっちが笑っちゃうぐらいに...

そう思うと私からちょっと笑いが生まれた。

馳くんはとても困惑してたけど...

私は馳くんと一緒に校舎を降り昇降口までついてきてもらった。

幸いなことに誰もいなかったから助かったけど...

私は馳くんに礼を言って1人で家に帰った。

家までは歩いて30分くらいでちょっと遠かったけど元々散歩とかが好きだったから苦には感じなかったけどやっぱりあの恐怖が蘇っちゃう。

もう、飛ぶことはできないな...

冬の寒さが消え春の暖かさが感じられた日中だったけどそれが逆転するかのような寒さが夕方を襲う。

指定のコートでも相当寒い。

なんでも指定とかずるいよね...

学校の風紀とか乱すとかいうけどそんなの気にする人はいないよ...

もちろん派手なのはダメなのは分かるけど黒とか紺とかの暖かいものだったらいいだろ...

そんなことを考えてたらあっという間に家の付近に着いた。

家までは時間を数える必要もない。

あれ?なんでこんな帰るのに安心感があるんだろう...

ただ、いつも毎日通ってる道なのに...


家に着いた。

玄関のドアは閉まってたので庭に隠してある鍵を開ける。

鍵は少し錆びれていた。

でも、難なくすぐ開けられる。

開けようとする。開かない...開かない...

なんで開かないの...?

おかしい...なんで...?

必死に開けようとするが開かない。

その時、自然と鳥のさえずりが聞こえた。

絶対無いと思ってるのになぜか聞こえてしまう。

そのうち自分がすぐ消える運命なのかを悟った。

なに?これって神様が連れ出しているの?

もしかして後ろに天の国へ行くレールとかあって私を迎え来たとかなの?

後ろを振り返るがない。

でもなんだ。この連れ出そうとしている空気は

嫌だ...嫌だ..私はまだ生きていたい。

あと少しでいいから生かしてくれ...

私はもう一回だけお父さんと会いたい...

そう思ってると鍵が開いてすぐ私は家に入った。

入った玄関はまるで時が止まってしまったかのような感じでどこか自分が異空間に行ってしまったかのような感じがした。

その瞬間私は安堵なのかすぐに倒れたかのように寝ちゃった。

もう帰ると思ってなかったので...

あぁ、なんでいないの...

お父さんまだかな...

早く来てほしいな...

玄関は温かくもなく寒く凍えるような空気だった。

コートの隙間から入る風が嫌だ。

どのくらい経ったのか分からなかった...

お父さんが来た。

「りん!おい、しっかりしろ!」

その声と共に起きた。

「どこか調子が悪いのか?頭か?腹か?」

そんなところよりももっと悪いところあるよ...

「心の中が悪い」

そう、短く返した。

すると、お父さんは

「気づいてあげられなくてごめんな...」

と、涙を堪えて謝罪して評価の高い心療内科を予約して診察日まで私を休ませてくれた。

その時、お父さんが私に

「何か学校で嫌なことでもあったのか?」

と、聞いてきた。私は話したいことがいっぱいあったけど今は話したくなかったので

「心療内科で全部吐き出す」

と、言った。そしたらお父さんが

「分かった。お父さんはお母さんのことだったり病気のことだったりを耐えていてりんはえらいと思うよ。仕事でいなくてごめんな...大丈夫、お父さんがいるからね。」

と、私を元気とまではいかないけど安心させてくれた。

私は現在でお父さんしか身内では頼れない。

私がずっと幼い頃に親戚がいたけどどっかに居なくなっちゃってそれっきり連絡取れてないみたい。

おじいちゃんおばあちゃんも両方消えちゃったから私の悩みに答えることはできない。

お父さんが裏切ったらもう、本当に消えよ...

まだ、そんな気持ちが残ってた。

壁からみんなの声が聞こえる。

みんながここにいるわけないのに聞こえる。

うるさい...うるさい...

なんで聞こえるの...?

どっか行ってよ...

私は枕で耳を塞いで聞こえないようにしていたらそのまま寝てしまった。

翌日、目覚めは生きてるのが不思議な感じがした。

昨日あれだけ消えようとしてたのが嘘みたいだ。

リビングに行くとお父さんはもう仕事に行ってるなと分かった。

診察の日は10日後

それまでは休んでいた方がいいとお父さんから言われ私は1人家にいた。

久しぶりの学校に行かない日だ...

あれ?最後に休んだのっていつだって?

あぁ、自宅療養の時か

今日から何をしよう...

何をしようとしても何もする気力がない。

もうダメだ...

私はそう思い、1日中ベットで過ごすことにした。

私って何してるんだろう...

これで大丈夫なのかな...

そこから私は診察までの10日間ただ、呼吸をしているだけだった。

ただ、息をしているだけ

ただ、心臓を動かして生命を維持しているだけ

それだけ

何も生産していない。

そのうち将来が不安になってくる。

このままでいいんだろうか...

この先もどうせ果てしなくつらいんだったら...

って消えることを考えることもしばし多くなった。

でも、安らぎの時が私にはある。

外から見る景色が薄暗い。

はっきりとした色ではなくどこかぼんやりとしているような感じだった。

2階だったから人の景色は見えない。

見えるのはマンションと近所の一軒家

それと電柱

殺風景の一択だった。

それが3日もすれば飽きてくる。

お父さんは仕事で行ってて日中いない。

まぁ、現場職だから仕方ないよねという面もある。

私が朝起きると今日のお昼代と書いてある紙とともにダイニングテーブルに1000円置いてあった。

私、そんな使わないのに...

そのお金で近所のスーパーでパンを買って食べる毎日

それ以外にお金を使う気にはならなかった。

何もする気力がなかった。

そうこうしているうちにあっという間に10日が過ぎた。

この期間結局何もできなかった。

病院の日


行くまでの道

私は窓の景色を見ながらお父さんの運転する隣に座っていた。

窓から見る景色は通ったことのある景色なのに初めてのように感じた。

散歩をしているご老人、元気に歩いている園児と保育士さん

忙しそうに電話しながら走っているスーツの人

逆に上司と楽しく話しながら歩いている人

色んな人がいる。

まるで、私とその人たちのところに境界線があるかのように住む世界が違うと感じた。

私のところがバッドゾーンで向こう側がハピネスゾーンみたいに

病院に着いた。

そこは住宅街にある診療所だった。

新築に近いような感じの雰囲気

最近開設されたような匂いだった。

受付を終え待合室にいる。

待合室にいる時に問診票を書く。

とりあえず、ここに学校であったことや体調不良などを書き出す。

思ってたよりもすらすらと出てくる。

とりあえず、言葉の文法としては終わってるかもしれないけど書き切った。

書き切り待合室でしばらく待つ。

悪いお医者さんだったらどうしよう...

そう考えるとどこか寒気がして怖くなってきた。

どうしよう...

どうしよう...

きっと大丈夫だよね...

そう、私の脳内は踊る。

踊っている。

「三島さんー」

お医者さんが診察室から私の名前を呼んで出てきた。

中年でお父さんと同じくらいに見えたけどなんだか老けて見えた。

女性だったらいいのにな...

よりによって中年のおじさんかよ...

でも、まぁ専門家だし何かしら答えを出してもらえるだろう。

私はこのお医者さんの診察室に入る。

事前にお父さんは診察室に入らないと決めてる。

だから、お父さんは待合室で待ってるだけ

一人だけ色んな事を吐くならここしかない。

そう思い、私は診察室に足を踏み入れた。


「三島さん、問診票に書かれている症状などはいつからありますか?」

「他に何か症状はありますか?小さいことでいいので」

などと、質問をしてきたので答えになる質問を返す。

どんな答えを返してもなんだかあいまいな表情だった。

それも何か言いたいけど言いにくそうな感じのやつ

「三島さん、私の見解なんですが...」

その重い口が開こうとする。

「それ、幻覚と幻聴だと思います。おそらく三島さんは全調失調症だと思います。」

全調失調症...?

「全調失調症は不安やストレスからなる病気です。これらの症状により幻覚や幻聴、激しい体調不良などが引き起こされます」

聞いたことあるし症状も思い当たる節がむちゃくちゃあるけど私がその病気になってるなんて信じられなかった。

現実を受け入れなかった。

信じたくなかった。

「先生、それが幻覚や幻聴だという証拠でもあるんですか?」

私はつい聞いてしまった。

「おそらく三島さんのおっしゃってた『聞いても誰もそんなことは言ってない』などということなどから推測するとそういう結果になります。似たような患者様は多く見てきたので」

あぁ、そうなんだ。

そうなんだ。

「先生、これからどうすればいいのですか?」

とりあえずこの悪夢から消し去りたい。

一刻も早く消し去りたい。

「まずは、そうですね。好きなことをしましょう。三島さんの好きなものは何ですか?」

私の好きなもの...

私の好きなものってなんだっけ...?

あぁ、絵だ。

絵も随分と描いてないな。

でも、好きなものに入るんだろう...

分からない...

「前までは絵を描くことが好きでした。でも、今はもう分かりません」

そう、先生に伝えた。

先生は私に安心感を抱かせるかのようにこう言った。

「それでしたらもう一回描いてみるというのはどうでしょうか?楽しかったころを思い出して描くという...」

楽しく描くねぇ...

最後に楽しく描けたのっていつだっけ?

あの時は確か馳君のお姉さんが引退して河野さんが部長になって...

それでみんなに追い付こうと必死だった...

結局こんなんになっちゃうし

なんとかこの場を切り上げたい。

さっさと終わらせたい。

なんでかは分からないけど

そんなことを考えていると先生が言う。

「三島さん、今までよくがんばりましたね。もう、がんばる必要はないですよ。私も三島さんの描く絵をみたいです。ゆっくりでもいいので描いてみてください。不安をできるだけなくす薬を出しておきます。もう、安心して大丈夫ですよ。あと、何か私に質問があったりしますか?」

質問はある程度あるけどこの人に聞いてもあれだしな...

「いえ、特にはないです。」

「そうですか、では次の受診は2週間後くらいになりますが大丈夫ですか?」

2週間後か...

もう、予定は全部消えちゃったしいいかな...

そう思ったけど何かあったらまずいからスマホのカレンダーを見る。

すると、お父さんの出勤日となっていた。

でも、いいか...

1人で来ればいいだけの話だし

「いいですよ。その日で」

先生のパソコンが少しうるさく鳴り響く。

気にならないレベルだけどどうしても気になってしまう。

「分かりました。お大事に」

そう先生は言い私は診察室を離れた。

診察室を出るとお父さんがいた。

出てくる私を悟ったのか

「ここで言う必要はない。車に乗ったら言っていいよ」

そう言ってくれた。

私は状況を整理する。

整理したい。

でも、なかなか想像がつかない。

お父さんが私の診断を受付をしてくれた。

私なら今できるのに...

お父さんに連れられて車に戻る。

車のドアを閉めてエンジンをかけるとエアコンがよく効いてた。

「なんでもいいから言ってみなさい」

お父さんは優しい口調でこのように言った。

でも、返す言葉が分からない。

「ん、」

そう短く言い私は診断書を見せる。

診断書には症状やその詳細が書いてあった。

「そうか...」

そう言いながらお父さんは診断書を読んでいた。

読み終わったのかこっちを向く。

「りん、今までこんなになるまで一人きりにさせてごめんな。お父さんここまでひどいなんて知らなかった。ごめんな...」

そう言い私の頭を撫でていた。

ふと、手の先を見るとお父さんの目には涙が垂れていた。

少しだけだったけど私の目にははっきりと映った。


家に帰り、私はこれからのことについて部屋で考えた。

学校のこと、病気のこと、絵を描くのをもい一回やること、その他のこと

とにかく頭の中が回る。

頭の中が混乱する。

私一人で考えてはいけないと思ってもどうしても考えてしまう。

そのうち、考えているのが疲れて私はふと、部屋を見わたした。

散乱した教科書、変な角度で折れているプリント、飲みかけのペットボトル

色んなものがあった。

見ないうちにどんどん積み重なっていった。

今までの私だったら片づけていた。

でも、もうそんな気力はない。

机の下に何か落ちてる。

タブレッドみたいなものだ。

でも、もう取りに行くのめんどくさい...

その時脳裏においしゃさんの言葉が浮かぶ。

とりあえず好きなことか...

あのタブレッドの謎を解明したら思い出してみよう...

私はそれを見るために身体を動かした。

相変わらず身体重い...

すっごく近いはずなのにめちゃくちゃ遠くに感じる。

届きそうなのに届かない。

あと少しあと少しと祈る。

やっと届いた。

ものすごく時間がかかった気がした。

謎のタブレッドを見るとそれはいつか買った液タブだった。

お母さんは許さないと思うからお父さんにこっそり買ってもらったやつ

やろうと買ったけどすぐに病気になっちゃってでできなくなってそのままだったやつ

まだ繋がるかな...

机に置きっぱなしのノートパソコンを起動する。

起動するのも久しぶりだな。

起動音が鳴る。

半年くらいに聞いた。

画面にPINを打ってくださいと出る。

確かこれだっけ...?

パソコンは拒否反応を示す。

そこでもう一回打つ。

またも拒否反応を示す。

あれ?なんで?

おかしい...

これじゃなかったらもう分からない...

最後の候補のPINを打つ。

頼む...開いてくれ...

パソコンは反応を示してくれた。

くるくると回っている。

やった...

パソコンはホーム画面に移動した。

ホーム画面懐かしい...

そのまんま

何もかも時間が止まったまんまだった。

絵を描いてたアイコンが懐かしい...

私は気づいたらクリックしていた。

すると、まだ5枚しか描いていなかった。

値段相応じゃない枚数だった。

もう一回描いてみようかな...

時間は私にとって長く感じたので私は試しに描いてみることにした。

そう思い、私は先ほど見つけた液タブを机に持ち出す。

持ち出してパソコンと繋ぐ。

パソコンはすぐに反応を示してくれた。

アプリを開くとすぐに描くことができた。

私はペンを持って線を引く。

こんな感覚だっけ?

もう、そんなことも忘れちゃったのか...

私はそう感じながらも思いついたキャラがいたためブラウザを開いた。

すぐに開くことができた。

すると、私の使ってたSNSがあった。

病んでから何も更新していないな...

懐かしさとかあったりしないかな...

そんな微かな望みを求めて開く。

すぐに反応した。

やっぱり私の更新は止まったままだった。

まぁ、当たり前か

通知ボックスへ行く。

通知は20件以上来ていた。

何事だ。苦情とかかな...

そう思い、開くと最後のツイートの返事欄はたくさんのコメントがあった。

「戻ってきてください!いつでも待ってます!」

「また、あの絵を見たいんです!」

「お元気ですか?返事が届いていることを願います!」

「早く帰ってきてください!!」

などのたくさんのメッセージがあった。

私は少し泣きかけた。

なんでこんな弱い人間になっちゃったんだろうということよりも

こんなに私のこと応援してくれる。

そこに驚いた。

てっきり批判メールやそんなことだろうと思っていたら違ってたんだから

でも、少しだけだけど元気出た。

私を必要としている人がいる。

私の絵を見せてっていう人がいる。

ちょっとでいいから描いてみようかな

そう思えた。

「りん、ホットココアでも...ってどうした!?何か嫌なことがあったのか...」

お父さんが部屋を開けてココアを持ってきてくれた。

でも、私がちょっと涙を流していることにびっくりしてココアを床にこぼした。

「わぁあ、あっち!あっち!りん、ごめんお父さんちょっとタオル持ってくるね」

そう言いお父さんは一階の洗面所へ走っていった。

熱いって言ってる感じがちょっと面白くて笑っちゃった。

あれ?久しぶりに笑った。

笑うとこんな感じなんだ...

戻ってきてお父さんがココアを拭く。

「りん、ごめんな。これ洗濯行きだと思うから。で、りん何か嫌なことあったのか?」

お父さんは再度私に問う。

「ううん、違う。私ね...もう一回だけ絵描いてみるね。もう一回私の色を探しに行ってくる」

そう、言葉が詰まりながらも返した。

「そうか、そうか。お父さんはもう一回りんの世界を見たいな。お父さんはりんの味方だからね。ごめんな...」

そう、返してくれた。

もう少しだけがんばってみる。

そう決めた。

そうしてたらお父さんが続けて

「でも、決して無理をしてはいけないぞ。それだけは分かってくれ...」

と、私に言った。

もちろんですよ。マイペース第一でやりますわ。

「分かってる。無理はしない」

そう力一杯に返した。

「まずは部屋を掃除しないとな...ゴミ袋持ってくるわ。ゆっくりでいいからいる物といらない物の仕分けしな」

お父さんはそう言ってくれた。

もう頼れる肉親はお父さんしかいない。

だから私、がんばるわ

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