第2話

コンコン


不意に自室のドアがノックされる。


「レイ、おやつ作ろ〜」


この部屋をノックする人は一人しかいない。


「侑。おはよ。」

「今日は何を作るの?」


センターに分けられた前髪に無造作に伸ばした襟足。生まれてから染めた事ないという綺麗な黒髪に綺麗な目をした端正な彼は兄。


やっぱり1人がいいけど1人では生きてけない。

侑は特別。


それに侑はお菓子作りが得意だから美味しいお菓子を食べれる。


「ガトーショコラ作る」


「手伝う」


私の言葉を予測していたかのように私のエプロンを投げつけてきた。


「ありがと、侑。」


侑は少し笑って、キッチンに向かっていった。

私も彼の後に続いて調理器具を取り出し始めた。


雨が降る外の風景とは対照的に、キッチンは温かな光と甘い香りで満たされていく。


お互いに黙々と作業を進めながら、心地よいゆったりとした雰囲気の中で時間を過ごした。


侑は手際よく材料を測り、ボウルでチョコレートを溶かしている間に、私は卵を割り、砂糖とバターを混ぜ合わせた。


「レイ、ココアパウダーを混ぜて」


私は頷いて、ココアパウダーを加え、泡立て器で混ぜ合わせた。


「ありがと、上手」


嬉しくなって少し笑う。褒められるのは嬉しい。

だけど。


「私はただ他の人に認められたいだけなんだけどさ、それが私の弱さなんだよね。」


私がふと口から出した言葉を侑は静かに聞いていたが、薄いくちびるがゆったり言葉をつむぎ出した。


「レイの事、強いとか弱いとかはわかんない。

でも、レイは自分を偽って演じることによってレイ自身を守ってきたんでしょ?


自分のことをしっかり守れるんだもん、弱くないと思うよ。

それに限界をちゃんと身体が教えてくれるでしょ?

それがレイの生き方なんだよ、きっと。


でもさ、いつか本当のレイを見せれる人にレイが出会えたらいいな、とは思うよ」


私は侑の言葉にうつむく。確かに、他の人に合わせて演じて生きてきた。


自分自身を守るため?


でも。本当の私は誰かから愛してもらうに値するような人間なのだろうか。本当の自分を見せることで人に認めてもらえるのか、。不安になった。


「でも本当に大切な人に、本当の自分を見せた時、嫌われたり裏切られたりしたらどうしよう?」


私の不安を侑は包み込むように微笑みながら言った。


「それでも、本当のレイを知ってくれる人が現れるよ。レイは優しくてとってもいい子だから。


きっとレイの存在を認めてくれる人が必ずいるよ。


それまでにはちょっと時間がかかるかもしれないし、失敗や痛みもあるかもしれないけど。


だけど、それはきっとレイを成長させてくれるんじゃないかなぁ。」


傷付けるなんて許さないけどね、なんて少し照れてるのかそっぽを向く侑。


「お茶の準備しよっか」


オーブンから出して冷ましていた甘い香りのガトーショコラはそろそろ食べ頃みたいだ。



部屋には甘く幸せな空気が満ちていて、こんな幸せな日々が続けばいいな、なんて柄にもなく思った。

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透明人間に紫陽花 入野 沙咲 @norinorimh

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