ババア百合

仲原鬱間

ババア百合

 A子さんお元気? といっても、元気に決まっているわね。A子さんが病気をしているところなんて、一度も見たことがないんですもの。

 私は元気よ。でも、近頃は何だか退屈で。しばらくあなたに会ってないからかしら。家に居ても気が滅入っちゃうから、運動がてらバーに通っているの。そう、あなたと出会ったあのバーよ。駅から少し離れているから、良い運動になるの。

 お酒を飲むと、体がぽかぽかして、暗い気持ちが紛れるわ。若い頃は何杯もいただいたものだけれど、歳を取ってからは、流行りの低燃費よ。グラス一杯だけ頼んでお店が閉まるまで居座るんだから、嫌な客ね。たくさん飲んでくだを巻く、昔の私たちみたいな客と、どっちがマシかしら。

 そうそう。この前あそこで、A子さんのお孫さんにお会いしたの。K君だったかしら。立派になったわね。良い大学を出て良い会社に勤めて、さすが、A子さんのお孫さんね。私もお友達として鼻が高いわ。

 でもね、A子さん。K君ったら、女の子と一緒だったの。イマイチ垢抜けない、野暮ったい子。私はいつも綺麗で、シャキシャキしていたA子さんを知っているから、悪いけれど、K君には不釣り合いだと思ったわ。

 はっきり言って、若い頃の私の方が、K君にはお似合いだったはずよ。A子さんの隣にいても恥ずかしくないように、ずっと努力していたんですもの。A子さんと一緒にいるのは、バーでお酒を飲んでいる時と、飲み明かした後の、駅までの帰り道。A子さんは酔っ払って覚えてないかもしれないけれど、私、誰に会う時よりも綺麗にしていたのよ。たとえ短くったって、A子さんと一緒にいられる時間のためだけにね。

 だから私、二人に挨拶してやったの。A子さんのお友達です、って。そう言えば、K君だってわかるはずよ。自分が、不釣り合いな女を連れていることくらい。ちょっと、意地の悪いことをしてしまったかしら。でも、K君なら、きっとわかってくれるはずよ。

 また一緒にあのバーに行きましょうね、A子さん。お返事、待ってます。


 いつまでも、いつまでも。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ババア百合 仲原鬱間 @everyday_genki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ