第7話 密談

西暦1941(昭和16)年1月15日 ポーランド共和国ワルシャワ 外務省


 この日、ポーランドの主都ワルシャワにある政府外務省にて、二人の男が会っていた。


「東プロイセンからの敵に大分難儀している様だな、ヨシフ」


 3か月前のマレヤンポレ会戦の事を触れてきたヒトラーの言葉に対し、スターリンは厳しそうな表情を浮かべる。自衛用の拳銃で今すぐにでも目前のちょび髭を撃ち殺してやりたい気持ちを押さえつつ、返事を返す。


「…まさか、敵の戦車部隊があそこまで強力だとは思いもしていなかった。すでに連中はバルト三国にまで攻め込んできており、このままではレニングラードも危うい。幸いにして侵攻スピードが遅いため、防衛体制は万全な状態に整えられてはいるが、そちらはどうか?」


「こちらも楽ではない。デンマークは完全に連中の手に落ちた。イギリスとフランスは救援としてオランダに大規模な派兵を開始しているが、時すでに遅しといった様子だ」


 情報機関経由で得た情報によると、相手の戦車がフランス製に酷似している事もあって、イギリス陸軍の戦車部隊がメインとなって戦っているそうだが、ソミュアS35もどきまでなら主力のマチルダ2歩兵戦車で対応出来たが、ルノーB1もどき相手にはどうにもできず、40ミリカノン砲は弾かれ、逆に相手の57ミリカノン砲と75ミリカノン砲で吹き飛ばされる始末であったという。


 そして空戦でも危うい状況にある。相手のドボワチンD520に酷似した戦闘機は、メッサ―シュミットのBf109をも凌駕する運動性能を示し、これまでの一撃離脱戦法を重視していた西欧諸国の戦闘機を苦しめていた。中型爆撃機による空爆も始まっており、各国は共闘しての対応を模索し始めていた。


「そこでだ。現在、双方が開発している兵器についての情報共有を提案する訳だが…今、何を造っている?」


「…ハリコフの戦車工場では現在、新型の中戦車が生産開始となっている。名はT-34、76ミリカノン砲を装備し、高い機動力を持つ、文字通りの新しい戦車だ。T-26やBTはもちろんの事、戦車砲の百貨店多砲塔戦車どもなど相手にならん能力を持っている」


 スターリンはそう言いながら、一枚の写真を手渡す。それを見たヒトラーは顔をしかめた。


 もしスターリンの話をそのまま信じるとするなら、T-34とやらは陸軍の4号戦車に迫る性能を持つ事となる。当然ながら3号戦車は陳腐化し、万が一ソ連と戦争になった時には一方的に鉄屑に変えられる事となろう。


「また、これとは別に、T-34と同じ76ミリ砲を装備し、防御力ではそれを上回るKV重戦車の配備も進めている。こちらはすでに実戦を経験しており、敵戦車とも対等に渡り合っている。何なら1個連隊分は貸してやろうか?」


 ソ連側はすでにドイツ軍戦車の実態を掴んでいる。そう言いたげに主張してくるスターリンに対し、今度はヒトラーが怒りを覚える番であった。だが本来の主力とするべきであった3号戦車が役立たずとなり始め、補助役であったはずの4号戦車が主力となり始めている中、贅沢は言えない。


「…分かった。では、T-34とやらを2個大隊分、KV戦車を1個大隊分もらおう。その代わりとして、海軍関連装備の輸出を貴国に行おう。相手は海からも攻めてくると聞くからな。何ならUボートのノックダウン生産も認める」


「ほう…随分と大盤振る舞いで来たな。まぁ、今の状況では仲たがいしている場合ではないしな」


「うむ…英仏及びアメリカからの支援も加わるだろうし、ともかくこれで、勝てるといいのだがな」


 その後も幾つかの話し合いは続き、密談は終了する。そして車へ戻り、駅へ向かう中、ヒトラーは側近に命じる。


「海軍に対し、新型Uボートの開発を急ぎ進める様に指示せよ」

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