第5話 第7装甲師団

西暦1940(昭和15)年5月10日 ドイツ国チューリンゲン州 ザールフェルト


 ドイツ中部に位置するチューリンゲン州の都市、ザールフェルト。そこにある陸軍駐屯地には、一人の将官が訪れていた。


「これが、新たに編成される第7装甲師団か…」


 新たな機甲師団の司令官に任ぜられたばかりであるエルウィン・ロンメル陸軍大将はそう呟きながら、目前に集う大部隊を眺める。


 既存の歩兵師団の兵員を転用して編制した装甲師団の一つである第7装甲師団は、定数72両の3個戦車大隊と2個歩兵連隊、1個偵察大隊と1個工兵大隊、1個対戦車大隊で構成されていた。


 しかし、神聖ローマ連邦陸軍との戦闘にて、既存の戦闘部隊では相手の機甲師団に対抗できないとして、編制に幾分かの変更が加えられた。まず戦車大隊に属する戦車は、生産が開始されたばかりの4号戦車D型を中心に更新され、歩兵連隊も自動車化が進められた。


 中でも大きな変化を迎えたのは対戦車大隊であり、72門の3.7センチ対戦車砲は40両の3号突撃砲に取って代わられた。対戦車部隊も装甲化した事で、攻勢の時には対戦車部隊も戦力として活用できるだろうとロンメルは考えていた。


「にしても、まさかこうして最新鋭の戦車を優先的に配備してくださるとは…それ程までに敵が恐ろしいと言うのか…」


「相手の戦車は恐ろしい強さですからね。まず騎兵戦車は、一見フランスのそれに似ていますが、比較試験用に取得したものと比較すると一回りも大きく、砲塔も高性能でした」


 分析担当の技術者曰く、オチキスH35騎兵戦車に似てはいるが、サイズが若干大きいためにエンジンはより出力が高く、砲塔も車長と砲手の二人が収まる大型なものになっているという。そして無線通信機もフランスのより高性能であり、鹵獲車両を見学しに来たフランス軍技術者は仰天したという。


「そしてBMWとポルシェ、ヘンシェルでは既に新型戦車の共同開発が開始されており、来年までに試作車を完成させてお披露目するそうです」


「まぁ、3号や4号を圧倒しうる戦車を、相手が投じて来たのだ。それもしょうがないか…いずれ、我が師団はかなり発展したものとなろうな…」


 ロンメルの呟きは、この2年後に現実のものとなる。

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