第4話 スターリンの憂鬱
西暦1939(昭和14)年11月3日 ソビエト社会主義共和国連邦 レニングラード
この日、ソ連の最高指導者であるヨシフ・スターリン書記長は、港湾都市レニングラードのオルジョニキーゼ工廠を訪れていた。
「同志、現在の進捗状況ですが、新たに労働者二千人をシフトに追加し、建造スケジュールの短縮2挑戦しております。必ずや、43年までに完成させてみせます」
工廠の責任者はそう言い、スターリンは不満そうに鼻を鳴らす。彼らの目前では、1隻の戦艦の船体が建造中であり、多くの労働者が忙しなく動き回っていた。
現時点でソ連海軍は3隻の戦艦を保有しているが、そのどれもが第一次世界大戦前に建造された弩級艦であり、イギリス海軍本国艦隊に土を付けたという神聖ローマ連邦艦隊の主力艦に対抗しうるものではなかった。
そのため、以前より欧州の資本主義国の持つ海軍に対抗しうる戦艦として、23型戦列艦の建造が進められていたのだが、神聖ローマ連邦の東プロイセン占領を機に、建造は加速を余儀なくされた。
現在、建造はウクライナのニコラエフにある造船所や、モロトフスクの造船所でも進められており、現時点で4隻の建造が行われている。それに加えて69型重巡洋艦2隻の建造も進められており、造船所は活気を見せていた。
「だが、今の戦場は陸だ。既に連中は東プロイセンを手中に収め、バルト三国へも兵を進めている。地上軍は奮戦を見せているが、海軍が寄与する余地はあるのかね?」
「同志、敵は物資の多くを船舶による輸送に依存しております。また、艦隊戦力を度々沿岸部の襲撃に用いており、海軍は駆逐艦及び潜水艦による迎撃を実施しておりますが、単純火力にて劣勢を強いられております」
神聖ローマ連邦海軍の駆逐艦は、現在イタリアに発注している新型駆逐艦に似たものであり、高い機動力と火力を誇っている。さらに相手は対潜水艦戦に慣れており、我が方の潜水艦は既に10隻以上が返り討ちに遭っていた。
「同志、ドイツは我が国に対して支援を強化しております。今こそより優秀な艦艇を建造し、バルト海を連中から取り戻すのです」
「分かっている。もし無残な敗北を喫する様な事があれば、粛清の対象となる事を覚えておきたまえ」
「はっ…」
スターリンは海軍士官にそう言いながら、急ピッチで建造の進められる戦艦の船体を見上げた。
その後、ソ連はイギリスより、北方艦隊が拠点とする軍港の整備支援を受け、さらにリヴェンジ級戦艦2隻の供与も受ける。そしてソ連は、神聖ローマ連邦軍が侵攻スピードを鈍化させたのを好機と捉え、軍の戦力増強と近代化を急速に押し進めていったのである。
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