(15)ベンチで重苦しい話は嫌いですか?
---そうですねぇ。どこから話せば良いのでしょう。とりあえずアネッサ様が突然王城から居なくなってしまったところから説明しましょうか」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「了解です」
そう言いながら、ミルクティーを一口含んだ彼女は、淡々と王城での出来事を語り始めた。
「まず、アネッサ様が居なくなった後の王城はパニックに陥りました。当然といえば当然でしょう。なにせ次期女王が勇者候補と共に異世界へと転移したのですから」
「なるほど………それで?」
僕は続きが気になりすぎて彼女を急かしてしまう。
だが、彼女は僕の少々失礼な催促にも顔色一つ変えず口を開き始めた。
「シュケイツ王国はそこで、次期女王を王国へ連れ戻すため、アネッサ王女救出作戦を立てたのです」
「だが、失敗に終わった…と?」
僕がそう呟くと、リサは無音の口笛を吹くがごとく口を細めた。
「流石ですね。まぁ金本様なら気付いてるんじゃないかと薄々感じていました(笑)」
「まぁ、僕もそのことについてはよく考えていたからね。君の話を聞いてようやく辻褄が合ったよ」
「それは良かったです。それで、続きなんですけど、失敗に終わった原因は王国兵たちがこの世界に転移できなかったからです」
「ほう…?」
僕は眉をピクリと動かす。
「そもそもの話、召喚魔法と転移魔法の違いはご存知でしょうか?」
「あぁ、もちろん。王城の図書館でよく勉強させてもらったからね。召喚魔法は当人を別世界から連れてくることができる。転移魔法は当人を別の空間へ移動させることができる…だろう?」
リサは形の良い二重瞼を細める。
「正解です。ですが、召喚魔法と転移魔法には少々厄介な仕組みがあるんです」
「………聞かせてもらおうか」
「ええ」と応じながらリサが口を開く。
「転移魔法は実は、当人もしくは血縁関係にあたる人物が一度は行った場所でないと移動できないのです」
「なるほど、だから王国兵は1人たりともこの世界に来れなかったのか………でも、それなら召喚魔法の応用で召喚先をこの世界に設定すれば良かっただけの話じゃないのかい?」
「それもできないのです。正確に言えば、"できるけどできない"の方が近い気がしますけどね」
「それも、召喚魔法の"厄介な仕組み"とやらのせいかい?」
リサはもう一度たっぷりとミルクティーを口に含んでから、会話を再開する。
「そうです。召喚魔法には致命的な欠陥があるのです。……それは、召喚する当人を選べない。つまり、完全ランダム性なのです」
「ふむ。ということは、何十億分の一を引けば、王国兵をこの世界に連れてくることも可能だった。というわけか…………まぁ、あの聡明そうな国王が自らの民をも異世界に強制召喚させうる危険を伴う魔法を行使させるわけない…か」
ここで一つ、僕の中に疑問が生まれる。
何故彼女は召喚魔法も転移魔法も使えないのに、この世界に居るのか?という疑問だ。
だが、それを僕が口にする前に、彼女の口が教えてくれた。
「ようやく本題に入るんですけども!"君はどうやってこの世界に来たんだい?"という質問でしたよね?」
僕は大きく首肯する。
「結構ぶっちゃけた話しちゃうんですけど、実は私の母が先代の勇者とやっちゃったみたいで…母はアネッサ様が転移するまで私にも隠してたんですけど、転移魔法適性検査をしていく過程で、私が異世界(日本)へと転移可能なのが発覚しまして…」
「転移魔法のルールでもある、血縁関係が勇者だったおかげで、この世界に来れたわけか…」
「…はい」
項垂れながらそう答えるリサを見て、少々悪いことを聞いたかな…?と思ったので、話題を次の質問に変えようとした時、丁度良いタイミングでアネッサが帰ってきた。
「ごめ~ん。補修が思ったより時間掛かっちゃって…リサはもう司に学校案内してもらった?」
「はい、思ったより早く学校案内が終わってしまったので、ここで金元様とお話ししておりました」
「そっか。じゃあ帰ろっか!」
「「あぁ、そうだな(そうですね)」」
ここで僕は一つの懸念を抱く。
あれ?リサってどこで寝泊まりしてるんだ…?
「な、なぁ。帰るところ悪いんだが、リサさんが帰る場所って教えてくれたり…するか?」
彼女はキョトンとした顔で僕のことを不思議そうに見つめ…一拍置いてからとんでもないことを言い出した。
「帰るところ…?そんなの決まってるじゃないですか。王女様が過ごしてる場所ですよ!」
「え?それって僕の家じゃ---」
「ま、まぁなんとかなるわよ!……ね?」
焦りを隠しきれていないアネッサの表情を察するに、そう言えばコイツはそんなやつだった!…と書いてある。
はぁ~。母さんになんて言い訳しようか…
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