(16)修羅場は魔法でなんとかなります
僕たちは今地獄の門の前に居る。
いつもなら爽やかなステップで押し開けるドアが、とてつもなく重たい空気を纏っているのが、僕の錯覚であるとは分かっているが、ひしひしと感じられる。
「なぁ、やっぱり君はこれまで生活していた場所に帰った方がいいんじゃないかな…?」
僕はどうにかアネッサの従者であり、転校生の彼女を我が家から遠ざけようとする。
だが、僕の抵抗も虚しく、彼女はとんでもないことを口に出した。
「何を言ってるんですか?私の住んでたところは"ほてる"と呼ばれるところですよ?異世界から持ってきた装飾品等を切り売りしながらなんとか住んでいましたが、今は資金もすっからかんです。それとも、金元様はこのようなか弱き乙女に野宿を迫る…と?」
涙目になりながら僕にそう問いかけてくるのは中々卑怯だと思う。
このままじゃ僕が鬼畜野郎だとアネッサに思われるじゃないか…
「はぁ~。仕方ない。僕も腹を括ろうじゃないか。だが一つ!条件がある」
「「条…件?」」
アネッサとリサが同時に疑問符を浮かべたような顔をする。
「あぁ、条件だ。流石にこのまま君を家に連れ込んだ場合、僕は母さんと父さんに問答無用で絞め殺されてしまうだろう。なんたって僕とアネッサはこの家では彼氏彼女関係なんだ。そんなところに君がくれば僕の母さんと父さんがどう思うか…君なら分かるだろう?だからそれを阻止してくれ。それさえしてくれれば僕はもう文句はないよ」
「ちょ、司!それはいくらなんでも無理なんじゃ…」
アネッサが不安そうにそう言いだすが、僕はあえてアネッサには反応しない。
「さぁ、どうする?」
僕がそうリサに問いかけると、彼女は即答した。
「もちろんその条件飲みましょう!アネッサ様のお側に仕えられるよう頑張ります!」
「その意気や良し!さぁ、しっかり阻止してくれよ?」
僕は若干の不安を抱きつつも、重苦しい空気を醸し出す扉を力いっぱいに押し開けた。
---ガチャリ………
「おかえり~」
お母さんのよく響く声がキッチンから玄関にこだまする。
どうやら、母さんはキッチンで料理中のようだ。
とりあえず母さんから攻略するとしよう。
僕たち三人は無駄に広い玄関に靴を脱ぎ捨て、足早にキッチンへと向かう。
「母さん、ただいま。大事な話があるんだけど、今いい…?」
「あら、どうしたの司ちゃん。大事な話…?」
母さんはキョトンとしながらも、料理中のため、お玉を持ったまま僕との会話を続行する。
「実は、アネッサの従姉妹が日本に来たらしくてさ…暫くの間ここに泊めてくれないか…って」
我ながら素晴らしいアドリブだと心の内で自画自賛する。
「アネッサちゃんの従姉妹…?何処に居るの?」
そう母さんが口にすると、それまでアネッサの影に隠れていたリサがひょっこりと顔を出す。
「どうも、初めまして!リサと申します。王女………ゴホンゴホン。アネッサちゃんの従姉妹です!」
どうやらリサも僕の即興アドリブに反応できたようだ。空気は読めないヤツだが、アネッサ関連となれば話は別なのだろう。
だが、僕とリサの完璧な即興アドリブも虚しく、母さんが手に持っていたお玉が勢い良くひしゃげる。
「司…ちゃん?アネッサちゃんとは正式にお付き合いしてるんじゃなかったの…?」
母さんの言葉のトーンが一段低くなる。
ヤバい、来る!
そう思った瞬間、リサの右手が輝き出し、我が家は光に包まれた。
「「----ッッ!眩しい!」」
リサの右手が輝き出してから10秒ほど経っただろうか…ようやく光が収まり、目の焦点が合ってきた。
……………あれ?さっきまでお玉をひしゃげながら怒っていた母さんが笑顔で味噌汁作りに勤しんでる…?
まだ目の焦点が合ってないんだと思い、思い切り目を擦る。だが、何度擦っても目の前には笑顔で味噌汁を作るいつもの母さんしか見えない。
「あ…れ…?母さん?」
僕が母さんにそう問いかけると、母さんは横目で僕を優しく見つめながらこう答えた。
「なぁに?司ちゃん。早くリサちゃんを部屋に案内してあげなさい」
僕は今この瞬間、目の前の出来事が全て丸く収まっていることに気付いた。
そんなバカな。リサは一体どんな手を使ったんだ…?などと考えながらも、僕はとりあえずリサを2階に案内することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます