(14)二度目の学校案内

 昼休憩が終わり学校に戻った僕たちは、5限と6限を睡魔に耐えながらなんとか受け、学校から帰るところだった。

 だが、アネッサがどうやら補修を受けるらしく、暇を持て余した僕は、途方に暮れて学校ご自慢の日本庭園に設置されているベンチに、空を眺めながらぼーっと座っていた。

 かれこれ10分以上眺めていただろうか。

空を眺めるのも億劫になってきたので、視線を庭園の方に移そうとした時、突然後ろから声を掛けられた。


「何してるんですか?もしかして暇人ですか?」


 後ろに手を組みながらひょっこりと現れたのは、非現実的な美少女こと"リサ"だった。


「うお!……アネッサはどうしたんだよ」


 突然声を掛けられたことにより、若干情けない声が漏れ出てしまったが、人間なら当たり前の反応だから聞かなかったことにしてほしい。

 そんなことより何故彼女がこの場に居るのか、それが気になった。彼女は仮にも侍女長なのだろう、当然ご主人様の側に仕えるのが義務というものだ。それをほっぽりだしてまでこの場所に来ているのだから、何かとんでもない理由があるのだろう…

 そんなことを僕が勘繰っていると、彼女は突然笑い出した。


「あはは、そんなにアネッサ様が心配なんですか?(笑)」


 若干の煽りを含めた言い方は、王城の図書館でのアネッサを思い出す。やはり類は友を呼ぶのだろう。


「なッ!そういうわけじゃないよ!仮にも君はアネッサの従者なんだろう?側に居なくて大丈夫なのか気になっただけだよ」


「あー、なるほど。実はですね、今日の放課後にアネッサ様に学校案内をしてもらう予定だったんですけど、どうやらホシュウ?のせいで案内ができないそうで…とりあえず司を頼りなさい!との言伝を頂き、ここに馳せ参じました」


「なるほどね。つまり君は僕に学校を案内してほしい…と?」


「ですです!」


 そう言いながら顔を至近距離まで近づけてくる彼女の顔面偏差値パワーに押し負け、僕はやむなく了承してしまった。







 "アネッサの補修が終わるまで"という条件付きで了承した学校案内は、スムーズにおこなわれていた。


「ここが食堂だね。君からしてもやっぱり狭いと感じるのかな?」


「そうですねぇ~。十分広いと思いますけど、アネッサ様の自室と比べれば若干狭い…かも?」


 どうやら彼女はなんとか庶民的な価値観を保てているらしい。

アネッサと同じ調子で「狭すぎるわ!」とか言い出してたら危うく手が出るところだった。


「それじゃ、次は庭園に行こうか」


「了解です~」


 ここまで彼女を案内してきて一つ気付いたことがある。それは、あまりにも日本の文化に対して耐性があることについてだ。

アネッサは転移当初、クーラーについてもまったく知らなかったのに、彼女はクーラーどころか、エレベーターのボタンの押し方すらすでに知っていた。

これについては、後で問い詰めよう…

 そんなことを考えながら歩いていたら、一瞬で庭園に着いてしまった。


「さっきまで僕がそこのベンチで座ってたからもう知ってると思うけど、ここが我が校自慢の日本庭園さ」


「へぇ~、やっぱり綺麗で素敵な場所ですね!」


「だろう?」

 僕が作ったわけでもないのに、何故か鼻が高くなってしまうのはなぜだろう。


「いやー、スムーズに案内できすぎてもう終わっちゃったよ(笑)アネッサはまだ補修してるらしいし、ベンチにでも座ろうか」


「ふむ…そうですね」


 彼女は一瞬答えに迷ったが、すぐに首肯してくれた。


 学校に常設されてある自販機から甘いミルクティーを買い、彼女に渡しながら僕もベンチに座る。


「少し質問いいかな?」


 僕は若干遠慮気味に彼女に問う。


「ええ、構いませんよ」


「じゃあ、1つ目の質問なんだけど、君はどうやってこの世界に来たんだい?」


「いきなり飛ばしますね(笑)」


 彼女は苦笑しながら空を見上げる。


「そうですねぇ…どこから話せばいいのでしょう。とりあえずアネッサ様が王城から突然居なくなったところから説明しましょうか」


 そう言いながら淡々と告げられるアネッサが転移した後の王城での出来事は、僕にとてつもない驚きを与えた。

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