2枚のチケット
「あら、今日は遅いわね」
「ああ、今日は友だちと遊んでて遅くなった…………てか、別に待ち合わせしてないだろ」
「いつも私より早くいるから、てっきりもう死んだのかと思ったわ」
「……………うるせえっ」
最初は、気まずい距離感だったが、今ではこんな軽口を叩けるほどまで、仲良くなった。
相変わらず、距離は遠いが、この距離感が心地良い。
「というか、友だちいたのね。意外だわ」
「おい、どういう意味だよ。てか、俺はお前が謎なんだが」
「なにかしら?」
「女の子が1人でこんなとこ来るなよ、危ないだろ」
「ふーん…………。私のこと女の子扱いしてくれるのね」
「それは……当たり前だろ」
「…………この際だから言うわ。私、貴方のことを好きになってしまっているらしいわ」
「……………は?」
「分からないならもう一度言うわ。私、どうやら貴方のことを好きになっているらしいわ」
いや、言っていることは分かるが、理解が追いつかないぞ。
「えっと、つまりお前は俺のことが好きなのか?」
「そうらしいわ」
そうらしいって…………。
「だから、あなたに死んで欲しくないわ。どうすれば死なないでくれるの?」
「……………」
「………まあ、私も無策じゃないわ。今日貴方を待っていたのはこれを渡したかったからなのよ」
そう言って、僕に何かのチケットを渡してきた。
「これは………」
「水族館に一緒に行きませんか?」
彼女は頬をリンゴのように赤らめ、恥じらいながら言った。
「…………是非」
「!!……ありがとう、日にちは平日しかないのだけど、大丈夫かしら?学校、休める?」
「ああ、大丈夫だ」
「ならよかったわ。じゃあ、私は色々準備したいことがあるから帰るわね。1週間後の金曜日に行きましょう」
「分かった」
「………それまで絶対に死なないでね」
「………分かった」
「じゃあ、楽しみにしてるわ!またね!」
「また」
そう言い残すと、彼女は急いで帰って行った。
まさか、この僕が女の子と水族館に行くことになるとは。
世の中何があるか分からないな。
水族館に行くまでは死ねないな。
………………楽しみだ。
僕は、月の光の遮る雲の下を、期待と興奮を胸に、家路に着いた。
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