毒りんごより毒メロン



 最近、隣の県でが起きているらしい。

 犯人はまだ捕まっておらず、確かな目撃証言も無いらしい。

 今日の放課後、先生からの注意を受けたのを下を見ながら思い出した。



「あら、何を見ているのかしら」


「!……いや、ちょっとな」


 最近、彼女と会う回数も増えた。

 今では僕が来るとほぼ毎日彼女も来ている。


「なによ、気になるじゃない」


「大したことじゃないよ、下を見てたら通り魔事件のことを思い出してな」


「あー、隣の県で起きたってやつね、わたしも今日、ちょうど先生から、気をつけて。って言われたわ」


「ほんとに気をつけろよ」


「お互い様よ。………でも通り魔事件って言われると、前に読んだ本のことを思い出すわ」


「どんな本なんだ?」


「簡単に言うと、通り魔を装って『』を実行するってお話だったはずよ。なかなか頭がいいわよね」


「そうか?」


「だって、普通に殺すよりも格段に証拠が残りずらいじゃない」


「……たしかにな」


 たしかに、お互い面識のない人を殺してしまえば、容疑者として疑われる可能性も低くなる。

 前々から計画を練ってしまって、そこから接触を控えてしまえば、繋がりが明るみになることもないだろうし。


「でしょう」

 そう言うと、彼女は満足したのか、いつもの定位置に座って、読書を始めた。



 今日はなんの本を読んでいるんだろう。

 気になるが、決して聞きはしない。


 たぶん、彼女は聞けば答えてくれるだろう。


 けど、あまり言葉を交わしすぎると、死ぬのが怖くなってしまう。


 …………死のうとしているやつが何を言っているんだか。








「…………ねえ、あなた、ほんとに死に方がでもいいの?」

 彼女は飽きたのか、本を閉じて、話しかけてきた。


「………まあ、特にこだわりは無いな」


「どうせ死ぬならロマンチックに死にたくないの?」


「ロマンチックか………。なら、一緒に飛んでくれるのか?」


「………ごめんだけど、わたしはもう死に方は決めているのよ」


「……どんな方法なんだ?」


「わたしは、『』を食べるって決めているのよ」


「毒りんごって………あの毒りんごか?白雪姫とかの?」


「そうよ、それ以外に何があるのかしら。毒りんごを食べるなんて、ロマンチックじゃない?」


「……まあ、メルヘンチックではあるな」


「感受性の違いね。誰も王子さまが起こしてくれるなんて思ってないわ」


「………俺は助けないぞ」


「ツレないわね、1回落ちとく?」


「1回で全部終わりだろ」


「冗談よ。………………ねえ、」


「なんだ?」


「もし、もしわたしが不慮の事故とかで死んじゃったら、あなた、わたしの代わりに、毒りんごで死んでくれる?」


「………そうだな、そのときは、食べてやるから起こしに来いよ」


「……!!分かったわ、約束よ」


「ああ、約束だ。……なんか『交換殺人』みたいだな」


「それもそうね」

 彼女はやっぱり笑顔が良く似合う。







「じゃあ、わたしはもう帰るわ。またね」


「ああ、またな」






 毒りんごか。美味しいのだろうか。

 毒メロンとかの方が美味そうだけど。


 こんなこと考えてるうちは、ロマンチストにはなれないだろうな。




 ………メロン、食べたくなってきたな。


 この時期に売っているのだろうか。

 帰ったら、母親に聞いてみるか。


 そんなことを考えながら、また家路に着くのだった。


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