考える人



 最近ここに来る目的が変わってきた。



 以前までは、いつでも飛べるようにここに来ていたが、今はに会うために来てしまっている。


 これが『』なのだろうか。


 ………………違う気がする。


 みんなはどうして生きているのだろうか。

 今まで考えたことなかったな。

 今度、誰かの意見でも聞いてみるか。






「あ、よかった、まだ生きてたのね」

 そう言いながら彼女が現れた。


「残念ながらな」


「前にも言ったでしょう?わたしはって」


「…………この前も思ったが、お前、俺のことす、好きなのか?」


「はー。勘違いも甚だしいわね。……この前1人のとき、なぜか前よりここが広く感じたのよ。それがちょっと怖くてね、」


「それは俺も同意だ、2人で居るのに慣れすぎたかな」


「いってもまだ2、3回ぐらいしか会ってないけどね」


「…………ずっと聞いてなかったが、なんでここに来るのかって聞いてもいいか?」


「別にどこにでもあるってやつよ、わたし、親と仲良くないのよ」


「なんか、すまん…………。」


「気にすることないわ、まあ、あなたのしょうもない理由に比べたら深刻かもしれないわね」


「ほっとけ」


 彼女はまた今日もいつも通り、本を読み出す。


 ちょうどいい、彼女に聞いてみよう。



 …………読書中に話しかけるのって失礼かな。


 けど、今日聞かなきゃ、次いつ会えるかわからないからな。


 いやでも、やっぱり失礼か?



「…………………………そんなジロジロ見てわたしに何か用かしら、やっぱあなた、わたしのこと好きなんでしょ?」


「ち、違うわ!…………お前はなんで生きてるのかなって思って」


「そうねー…………今好きな漫画がアニメ化してるから、かしら」


「…………は?そんな理由って……」


「なによ、悪い?理由なんて人それぞれでしょ」


「だとしても………………じゃあそのアニメが終わったらどうするんだ?」


「そうね…………そしたら好きな小説家さんがいつか出すはずの小説を読み終わるまで我慢するわ」


「そんな無茶苦茶な…………」


「あとはそうね、海外にも行ってみたいわね。まだ行ったことのない世界に行ってみたいわ」


「……………………」


 彼女はクスッと笑って

「ごめんなさい、例えが悪かったわね。要するに『』かしら。好きなアニメを見てれば幸せだし、好きな小説家さんの本が読めれば幸せ。だから、そういう『』を楽しみに、わたしは生きてるわ。それに…………今、死んでしまったら、あなたに会えなくなるし。」


「なるほどな………………いいなそういう考え方。シンプルで」


「そうでしょう?あなたもこのくらいシンプルに考えればいいのよ」


「なかなか難しいな」


「はー、あなたまるでね。

 そういえば知ってる?考える人って地獄を見つめてるらしいわよ。あなた、そこから飛んだら地獄へ堕ちていくんじゃないの?」

 彼女はニコニコ笑って僕を罵る。


「それは困るな。それにしても上手いな、を掛けるなんて」


「まあね!」

 彼女の笑顔はまるで太陽だ。

 今は夜なはずなのに明るく輝く。








「…………それじゃあ、わたしは帰るわ。また会いましょう」


「ああ、またな」









 シンプルに考えるか。


 いつも僕は考え過ぎてしまう節があるからな。


 とはいっても、いきなりシンプルにと言われても難しい。


 けど何かは掴めた気がする。






 明日は体育の時間に俺の好きなサッカーがある。

 とりあえず彼女を見習って楽しみを味わうために生きてみるか。






 そんなことを考えながら今日もまた家路に着くのだった。



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