7話 戦いの後

「えーそれでは、反省会を始めたいと思います」


「「はーい……」」


 二人とも落ち込んでいる。


 俺たち敗北者一行は宿屋の一室に移動した。


「ごめんなさい。私が足引っ張っちゃって」


 アオイが俯きながらぼそっと呟く。


「ううん。そんなことないよ。アオイちゃんはよくやってたよ。あれは運が悪かっただけだと思うし」


 あれ、とはあの火球のことだろう。確かにあれほど狙いが集中するのは運が悪かったとしか言えない。


「装備もそろえて出来る限りのことはやったさ。また今度、挑戦しようぜ」


「でも、私のレベルが低かったのは事実ですし……」


「なら一緒にレベル上げをしよう。そうすれば解決さ。気にするな」


「……はい!」

 

「あとは僧侶がNPCだと細かい指示ができないし、それも課題かもな」


「あとさ、みんながダウンした後、アイツの第二形態見たぞ」


「第二形態?」

 

 首をかしげるアオイにノエルが答える。


「グランドールは体力が半分を切って、火球や炎の息の後、人間に変身するんだ。僕も実際に見たことないけど……。どうだった?」


「とにかく俊敏だった。五十メートル走一秒って感じ。見た目は随分と小さくなるが間違いなくあっちの方が強い。」


「うわあ、そんなの勝てるんですかね?」


「うーん、どうなんだろう。詳しい話、誰かから聞けないかな?」


「誰かって、誰ですか?」


「経験者。倒したことのある上級者の人に話聞けないかな」


「うーん、それなら、がおちゃんさんに聞いてみる?」


「がおちゃんさん?」


「えっとね、私とユキの所属しているギルドのリーダー。リリース初日からずっとプレイヤーの最前線を走り続けている人なんだ」


――――――――

「おお、一週間ぶりくらいかな? そっちがアオイさん? 初めまして、がおちゃんです」


「……でかいっすね」


 現れたのは二メートル近くある獣人の男。彼ががおちゃんさん。基本ジョブは僧侶以外。攻撃ジョブはもうすべてレベル60にしている上級者……いや、ゲーム廃人だ。


「がおちゃんさんってどんな方なんですか?」


「ああ、ノエルが言ったこと以外は詳しく知らないな。リアルはさっぱり」


 リアルの事は詳しく教えてくれない。ここ一週間はログインしていなかった気がするが、それまではほぼ二十四時間プレイしていたし何者なのか気になる。


「てか、みんな装備強くないか? 一級品だろ?」


「ええ、まあ色々ありまして」

 

「……当たったこと言わないんすか?」


 アオイが耳打ちする。


「この人、口軽いから……」


 がおちゃんさんに案内され、ギルドハウスの会議室へ入る。

 

 部屋の最奥に豪華な椅子があり、扉からそこまでの直線の両側にそれぞれ椅子が並んでいる。


「おお! かっこいいっす!」


 アオイは目を輝かせているが、俺はどっかでゲームで見た暴力団の部屋みたいだとしか思わん。


「それで、今日の要件は? 彼女をギルドの追加メンバーに……ってわけじゃないんだろ?」


「はい。強ボス・邪龍グランドールを討伐するヒントを頂けたらと思って」


「ああ、あいつか。あいつは……レベル50以上のプレイヤー四人いれば勝てると思うが」


「……もう少し具体的に」


「戦士、狩人、魔法使い、僧侶全員レベル50。それに加えて装備もある程度いい物を。全員攻撃を二発受けても耐えれるくらいがマストだな」


「それと、この討伐で一番重要なジョブは戦士だ。第二形態では行動が近接攻撃メインになってほぼタイマンになるからな」


「……第二形態」


「悪いが俺からはそんなことしかアドバイスできねぇな」


「いえ、ありがとうございました」


――――――――


『戦士が一番重要』


『第二形態ではタイマンになる』


 多分、いや間違いなく一番俺が頑張らなければならない。


 先日のビッググリズリーソロ討伐のように、一人でも強敵を相手できるようにならなければ邪龍の第二形態とは戦えないだろう。


 そのためにはレベル上げもしなくては。基礎ステータスがあればもっと楽に戦えるはずだ。


――――――――

 その後、二人と一緒に数時間のレベル上げをして、俺とノエルはレベル53になり、アオイはレベル32になった。


 ギアとの接続を終了し、頭から外す。


 そこにはエリカがいた。


「あ、お帰りー」


「た、ただいま。俺の部屋で何してんの?」


「ん、これ。マンガ読んでた」


「自分の部屋で読めばいいじゃないか」


「持っていくの面倒だし」


「……言っとくけど、汚すなよ? 前にチョコレートで汚したろ」


「あー、そんなことあったっけ……?」


 後ろめたさからかエリカは目を合わさない。


「あ、そういえば今日葵と一緒にパーティ組んだぞ」


「へえ、どうだった? 楽しかった?」


「ああ、あの性格だからな。色々話すからレベリングの時も退屈しなかったな」


「だよねー、私も最初は『この子めっちゃぐいぐい来るなー』とか思ってたし。ちなみに今日は何をしたの?」


「ん、強敵と戦った。勝てなかったけど」


「あらら、残念。次は勝てそう?」


「どうなんだろう。俺が頑張らないと勝てないって感じだから結構ビビってる」


「ふーん、アオイは? 活躍した?」


「ああ、それはだな――」


――――

 しばらくエリカと色々話した。

 

 今日の出来事や好きな漫画の話、最近葵から近況報告がよく送られることなど色々。


 エリカはD・M・Oの事はあまり興味がなさそうだが、葵のことを話すと喜んでくれる。


 エリカに仲の良い友人がいることはシンプルに喜ばしい。


 中学までは正直言って友達が少なかったと思う。


 いじめを受けているようなことはなかったが一人でいることが多かったし、放課後は誰かと遊びに行くことはあまりなくて、家で一緒にゲームすることが多かった。


 だから、高校に入ってすぐ友達ができたことに、兄として嬉しいのだ。


「ふぁああ。悪い、もう眠いから寝てもいいか?」


 本当はもっとエリカの話を聞きたいが、眠気には勝てない。


「わかった。おやすみー」


 エリカは漫画を数冊手にして部屋に戻る。


「……最初からそうすればよかったんじゃ?」


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