8話 デートっぽい何か

 今日は葵と一緒にレベリングをすることにした。


 アオイとパーティを組むようになってから、彼女について一つ分かったことがある。


 それは敵の攻撃を回避するのが上手いということだ。


 グランドールとの闘いでもその片鱗を見せてはいた。理不尽な数の火球であり避けきれなかっただけで、相当な数の火球をなんなく躱していた。


 さらに、先日はビッググリズリーをノーダメージで倒したそうだ。


 俺が苦戦したビッググリズリーをそうも簡単に倒したと聞き、正直なところ焦りと嫉妬を感じた。


 結局、いくらゴールドで優れた装備を整えたところでプレイヤースキルがなければ意味がないのだと思った。


 今の俺にはこの剣も、この盾も、この鎧も宝の持ち腐れなのではないかと思う。


「ハァッ!」


 アオイに負けじと素早くイカを狩る。 


 葵は的確に攻撃を避け、火球でモンスターを燃やし尽くす。俺なんかよりも的確に。


――――――――


「……いやあ、凄いな」


「そうですか? なんとなくでやっているだけですけど」


「いや凄いって。俺なんかよりずっと上手いんじゃないか?」


 あのプレイングスキルに加え、彼女のレベルはもうすでに35だ。


 一体一日何時間プレイしているのだろう。


 あと何日で追い越されてしまうのだろう。


「いやいや、戦士と魔法使いでは戦い方とか全然違いますし、一概に比べることはできないですよ」


 彼女はまだ自覚していない。自分がとてつもないセンスの持ち主だということを。


「そうだ、明日はどうするんすか?」


「……明日はオフラインショップに行くよ。明日で最終日なんだ」


「オフラインショップ? って何ですか?」


「ああ、それは――」


 オフラインショップの説明をした。


「それ、私も一緒に行っていいですか?」


「俺と?」


「はい! 二人で出かけることとかなかったんで! デートしましょう! デート!」


「分かった。それじゃあ明日」


「はい、ありがとうございます! あ、もうこんな時間。今日はもう失礼しますね!」


 ぺこりと一礼しログアウトする。


――――――――

 翌日。


 俺は最寄り駅で葵を待っていると、ぜえぜえと息を切らしながら誰かが向かってきた。


「お、お待たせしました」


「別に遅刻じゃないからそんなに急がなくてものに……」


「い、いえ。顔見たら走りたくなって」


「飼い犬かよ。まあいいや、行こうぜ」


 電車に乗り数十分。思っていたより早く着いた。


「ユキ先輩ってアキバってよく来ますか?」


「ん? あんまり」


 秋葉原。


 俺が生まれた頃はオタクの街だったそうだ。アニメのグッズやパソコンの部品を購入するために多くのオタクが訪れていたと父から聞いたことがある。


 けれど、オタクもネットで買い物を済ませることが増え、現在ではコンセプトカフェや風俗の街に変わりつつある。


「なんで期間限定でオフラインショップなんてやるんでしょうか?」


「さあ? プロモーションとかマーケティング的なことはよくわからん」


 ショップは駅から歩いて数分の所にあった。


 販売されているのはモンスターのフィギュアやストラップ、ぬいぐるみ。それにマグカップやタオルなど。まあ想像通りだった。


「あ! あれ見てください、紫電の剣じゃないですか?」


 そこにあったのは一分の一スケールの紫電の剣レプリカだった。


 値段は十万円。流石に買えない。


「ゲーム内のお金、現金にできたらいいんですけどね」


「確かに。リアルマネートレードは禁止だが」

 

 RMTが発覚した場合、売った側も購入した側もアカウントを消去され二度とプレイすることはできない。


 ちなみにあくまで都市伝説だが、RMTをするとBBギアから電磁波が発せられ殺害されるというものがある。


「……百万ゴールドが千円らしいですよ。先輩」


 馬鹿野郎。スマホで調べんな。


「……やらないからな」


 俺は電磁波で死にたくはないからな。


 数分後。


 俺は好きな猫モンスター『ぶっちー』のフィギュアを購入し、葵はストーリーのメインキャラクター『アリア』のフィギュアを購入した。


 そして、レシートには限定アイテムの交換コードが付属していた。


「限定アイテム。どんなものなんでしょうか?」


「幸運の帽子。頭にかぶるとアイテムのドロップ率がほんのすこし上がる、らしい」


「ほんのすこしってなんか信用できませんね」


「気持ちはわかる。さて、目当ての物は購入したし、帰るか?」


「ですね、あ、でもコンカフェとか行きます?」


「興味ない」


「私もです」


 じゃあなんで聞いたんだよ。


「あ、見てください。あの子、グッズ沢山買っていきましたよ」


 彼女の言った方向を見ると、両手に大きな袋をいくつもぶら下げた女の子がいた。


 髪は銀髪でとても綺麗だ。


「あれだけ買えるってことはお金あるんでしょうか。うらやまっす」


「銀髪で思い出したけど、ノエルもここきたのかな?」


「かもですね。案外どこかで会っていたりして」


「かもな」

 

 秋葉原の滞在時間はおよそ一時間。こりゃデートとは言えないな、と思った。





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