5話 星野葵、初めてのD・M・O
「つまり、星野さんにBBギアを貸すってことでいいのか?」
「そ、私が持っていても使うか分からないし、それなら欲しい人が持っておくべきじ
ゃない?」
「それならそんな回りくどいことしないで上げればいいのに」
「いやー、さすがに貰うのは申し訳ないんで。あ、普通に葵って呼んでくれていいですよ。お兄さん。」
「わかった。葵……さん」
「さんもいらないですよ」
「……葵」
「はい!」
女子をこうやって名前で呼ぶのは恥ずかしい。
「お兄ちゃんなんか顔赤くなってない?」
「なってないよ!」
なってない。なってない……はず。
「そういえば、お兄さんD・M・Oやってるんですよね。よければお兄さんのデータ、見てみたいです!」
「エリカから聞いたのか。ああ、もちろん」
スマートフォンでアプリを立ち上げステータス画面を見せる。
エリカは興味がないみたいで一人スマホを操作している。
そういえばエリカってなぜかD・M・Oは興味を示さないんだよな。ゲーム好きなのに。
「おお、ジョブは戦士なんですね……。お、レベル51。あ、装備めちゃくちゃ強いですね」
「分かるの?」
「はい、D・M・Oの配信者、よく見るので」
D・M・Oはゲーム世界を配信することが可能だ。BBギアが高額ということもあって、配信だけは見るという人ももしかしたら結構いるのかもしれない。
「この紫電の剣って、確かあれですよね。雷がバリバリってなるやつ。かっこいいですよね!」
「あ、分かる? 買ったときはなんとなく強いやつを買おうって思ってたんだけど、いざ使ってみると中二心をくすぐって最高」
女子とD・M・Oの話をするのはなんか新鮮だ。
嬉しくなって装備やステータス以外のデータも表示していく。
すると、
【所持金:994,020,000ゴールド】
「あ」
すばやく画面を隠し、葵の顔を見る。
「なんで隠したんですか? 今の所持金、どうやったんですか? どんな金策を?」
……隠しきれなかったみたいだ。つい油断してしまった。
「……誰にも言わない?」
「言わないっす。こう見えて口の堅さには自信ありますよ」
「年末にD・M・Oで宝くじ売っててさ、なんとなく買ったら……一等当たってさ」
「ええっ!?」
「ふーん、それって凄いの?」
エリカはあまり興味なさそうだ。
「凄いよ! 沢山買っているプレイヤーとか普通にいるはずだし、何千万分の一の確率かも」
「人生の幸運、全部使いきったんじゃない? 当たるなら現実で一等当たってほしかったなあ」
まあ確かにそうかもしれない。
ピンポーン。
そうこうしていると宅配便が届いたようだ。
「あ、届いた。お兄ちゃん受け取ってきて」
――――――――
届いてから数時間後。
BBギアの面倒な初期設定を済ませた。過去に経験のある俺が手伝ったけれど思ったより結構時間がかかった。
「はいこれ。葵に貸すから」
「ありがとうエリカちゃん。お兄さんも色々とありがとうございました。あの、頑張って進めるので、もしよければ今度一緒にやりませんか?」
「ああ、もちろん。楽しみにしてる」
「ありがとうです! それじゃあ連絡先、いいですか?」
画面にQRコードを表示させ、読み込ませる。
「はい、登録完了です! 試しに何か送ってみますね」
可愛らしい猫のスタンプが受信される。
「それじゃ、今日はありがとうございましたー!」
パタパタと走る葵を見送る。
「ねえお兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
「葵に手、出さないでね」
「そ、そういうのじゃねえって!」
――――――――
三日後。
放課後の教室で今日もD・M・Oしようかな。とか考えながら帰宅の準備をしていると、
「おーーーい。ユキせんぱーい!」
廊下からでかい声で呼ばれている。ちょっと恥ずかしい。
「それで、レベルようやく30まで上がりました!」
うん、知ってる。さんざんメッセージで進捗送られてきているし。というか夜中にも連絡来るのは勘弁してほしい。いったいいつ寝ているんだろう。
「それでそれで、今日一緒にパーティ組んでくださいよ! いい加減NPCとパーティ組んでいるの退屈ですから」
D・M・Oはボッチにも優しく、PTメンバーを最大三人までNPCで補填できる。
ただ、プレイヤーよりは行動が単純なので、難易度の低いストーリー攻略以外ではさほど役に立たない。そのため、やはり他のプレイヤーとパーティを組んだ方が有利だ。
「ああ、もちろん。じゃあレーヌの宿屋前で集合で」
「了解です!」
――――――――
「お待たせしましたー!」
こちらでの葵の姿は現実とあまり変わらない。黒髪ロングに金髪メッシュの少女だ。
彼女のジョブは魔法使いだ。ちなみに理由は「魔法はかっこいいから」だそうだ。
「えっと、こっちでもアオイって呼んでいいんだよな?」
「はい! アオイです!」
「ちなみに、どうして本名で登録をしたんだ?」
「ストーリーやってるときにキャラクターから名前で呼ばれると嬉しいからですね。あと、早くプレイしたくて名前で悩んでいる時間が勿体なかったので」
「まあ、後から変更も出来るし別にいいのかな」
「そうなんですか?」
「ああ、リアルで少しお金を払う必要はあるけど、名前とかアバターを変えることができるんだよ」
「へえ、もし変えたくなったらそうします」
「それで、今日は何をするんだ? 俺に出来ることなら手伝うよ」
「はい、強ボスっていうのに挑戦してみたくて」
強ボスとはストーリーで登場したボスが強化されたもので、倒せば強力なアクセサリーを入手できる。
強ボスはストーリーの登場順に戦うことができ、一体目を倒すと二体目、二体目を倒すと三体目、といった具合に順々に開放されていく。ちなみに今実装されているのは合計で十二体だ。
「あー、どうなんだろ。あれ結構強いんだよな。勝てるかな……」
実のところ、俺も強ボスは倒したことがない。随分前に戦ってボコボコにされて以来トラウマだ。しかし、今の俺なら十分戦えるかもしれない。
「あ、ユキー!」
呼ばれた方へ振り返ると、そこにはノエルがいた。
「ユキ先輩のお知り合い?」
「初めまして。ノエルっていいます。ユキのフレンドですか?」
「はい! ユキ先輩の後輩のアオイです!」
「先輩? リアルでの?」
「まあ、そんな感じ」
「へえ、ユキに女の子の知り合いが……。なんか意外」
「意外って俺のことを何だと思って……」
「あはは、冗談冗談。それで、二人はこれからどっか行く感じ?」
「強ボス討伐にな。良かったらノエルも一緒にどうだ?」
「良いの? お邪魔じゃない?」
「全然! むしろお願いしたいくらいです!」
「そっか、ありがとう。それじゃあ早速準備しないと。装備とかどうかな?」
「そうだな。俺のは今のままでも十分だが、ノエルとアオイは少し物足りないかもしれないな。俺がゴールド出すから装備揃えようか」
二人の装備を確認していると、あることに気が付く。
「あれ、今日は俺の買った弓、装備してないのか?」
「うん。あれはユキとパーティ組む時だけってしてるんだ、人の力ばかり借りちゃいけないからね」
「おお、かっこいいです。私もそうします! 先輩とパーティ組むとき限定装備ってことで」
そうして俺はノエルに防具、アオイには杖と防具を購入しプレゼントした。念のため俺も新たな盾を買った。もちろんどれも+3の最高装備だ。
それに加えてサポートAIキャラの僧侶を一人編成する。俺らのジョブはそれぞれ戦士、狩人、魔法使いで回復が得意なジョブがいないからだ。
「それでは、強ボス【邪龍グランドール】討伐にしゅっぱーつ!」
「「おおー!」」
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