3話 イカ(でレベ)リング

 デュララノ海岸にはレベリングを目的としたプレイヤーが多く集結する。


 その理由は主に二つ。


 一つ、町から非常に近い点。最寄りのワープポイントであるイシーナ村から歩いて数分の所にあるため、長時間の狩りで中断と再開がしやすい。


 もう一つの理由、それはもっとも単純。目当てのモンスター【ばけものイカ】は経験値効率が良いからだ。


 彼らは必ず一度に四匹程度でポップするため、一階の戦闘で討伐できる数が多い。


 また、彼らの行動パターンは単純で、面倒な状態異常を引き起こす技を使用してこない。


 さらに、討伐した際に1/32の確率で綺麗な貝殻(売却値290G)を落とす。


 運営に「どうぞ狩ってください」と言われているみたいだ。


 ちなみに先月討伐された数はおよそ二億匹以上。このゲームのプレイヤー人口よりずっと多い。


「あ、いた」


 海岸の岩陰に潜む四匹にゆっくりと近づく。


 接敵すると視界の四隅のメニューは戦闘用のメニューに切り替わる。


 左上の自身とパーティメンバーのHPバーとMPバーはそのままに、左下に表示されていたミニマップが消える。


 右上には敵の名称とHPバー、右下には俺の使用可能スキルが表示される。


 そして、正面には頭上に赤いカーソルの浮かんでいる四匹のばけものイカ。


 鞘から剣を抜くと、紫色の雷を剣身に纏っている。


 迫ってくるイカを一匹、また一匹と斬る。


 四匹のHPバーは八割消し飛んだ。


 強力な武器であることに加えて、水属性のばけものイカは雷属性が弱点ということもあり大ダメージだ。


「ノエル! 頼む!」


 そこに後ろで弓を構えていたノエルがスキル【アローレイン】を発動し、上空から数十の矢が雨のように降り注ぎ、奴らを串刺しにした。


 四匹はHPバーがゼロになると砕けた結晶のようにバラバラになり消滅した。


「今の、何秒だった?」


「戦闘開始から終了まで二十秒。これまでと比べたら各段に効率が上がったね」


 これまでの討伐タイムはおよそ四十秒だった。


 単純に時間が半分になった。これに加えてレベルが上がればさらに効率は上がるだろう。


「これさ、あと何体倒せば60レベになる?」


「一体当たりの経験値が190ポイントくらいだから……。レベル50から60まで大体80万弱必要だから、あと四千匹!」


「一回の戦闘が四匹だとしてもあと千回か。気が遠くなるな」


「そう? 意外と楽勝じゃない?」


 ノエルは余裕そうだ。D・M・Oにはベータテストの時から参加しているみたいだし、まだ俺とノエルでは少し差があるのかもしれない。


「まあ、レベル1から50になるまでの経験値と50から60になるまでの経験値が同じっておかしいような気がするけど」


「それはそう」


――――二時間後。


「よし! レベルアップ!」


 休憩や雑談を挟みながら緩い感じでレベリングを繰り返していたらレベルアップし二人ともレベル51になった。


「どうする? 今日はまだ続ける? あと一時間くらいなら大丈夫だけど」


「んー、ちょうどいいし今日はこれで」


ワープしてレーヌに帰還。今日のレベリングで入手したアイテムを売却する。


「あ、そういえばさ。今度、秋葉原でオフラインショップが開催されるって知ってる? 二千円以上グッズを購入すると特典コードで限定アイテムが入手できるってやつ」


「そうだ! 忘れてた。あれって今月末までだよな。ノエルは行くのか?」


「もちろん。限定アイテムもそうだけど、普通にグッズとか気になるし」


「良ければ一緒に行かないか? リアルでも会ってみたいし」


「え! えーっと……」


 ずっと一緒にパーティを組んでいるからといってもオンライン上の相手。会うことを好まない人もいることを忘れていた。


「いや、無理ならいいって。気にしないでくれ」


「うん、ごめんね」


 ノエルに気にさせてしまい申し訳なく思う。こればかりは仕方のないことだ。ショップは一人で行くことにしよう。


「それじゃ、また。暇だったらメッセージ送る」


「うん、おつー」


――――


 ギアを外すとそこは自室。


 ベッドから起き上がり壁掛け時計で時刻を確認する。二十二時五十分。


 一階のリビングの音が少しだけ聞こえる。


「あ、やっと出てきた。父さんたちとっくに帰ってきたよ」


 廊下で部屋に向かおうとするエリカとばったり出くわす。


「二人、何か言ってた?」


「ううん、ゲームしているのはいつものことだし」


「そっか」


 俺の両親は放任主義で結果主義だ。日々ゲームに時間を浪費してもテストで赤点を取らなければ怒られることはない。


 俺はお風呂に入る前にリビングの両親に労いもかねて顔を出した。直接口に出して言うのは照れくさくて言えてないが、遅くまで仕事をしている二人には感謝している。せめてテストで良い結果を出して応えたいと思う。


――――――――


『最強』


 俺よりも時間に余裕のあるプレイヤー。俺よりもゲームに詳しいプレイヤー。俺よりもゲームが上手いプレイヤー。どれもごまんといるだろう。


 けれど俺よりもゴールドを持ったプレイヤーはきっといない。


 きっと、俺ならなれるんじゃないか? 最強装備を揃えた最強のプレイヤーに。


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