2話 武器と防具を買おう

 今日は両親の帰りが遅いため、妹のエリカと二人きりの夕食だ。


 二人の帰りが遅いのはよくあることで、こうして二人で夕食を取ることはそう珍しいことではない。

 

 世間一般でのこの年頃の兄妹の仲というのはどういうものなのだろうか。


 俺たちの場合はお互いの生活に深く干渉しないことを心掛けている。けれど、その日あった出来事を笑いあうことはある。


 まあ、ブラコンとかシスコンでは断じてない。

 

「そういえば、明日って暇?」


 最後の一口を食べ終わるとエリカが俺に訊ねる。


「あー、ゲームするだけだから暇っちゃあ暇かな」


 高校に入ってから休日に外出することは減ったと思う。俺は部活には入っていないし、一緒に出掛けるほどの友人もいないから必然だ。


「明日の午後に荷物届いたら受け取って欲しいなって。多分その時間家にいるの」


「わかった。ちなみに何が届くんだ?」


「BBギア」


「え! 買ったのか!?」


 てっきり化粧品とかが届くのかと思っていた。


「あはは、違う違う。推しのSNSフォローしてたらプレゼント企画で当たっちゃったの。」


 ええ、兄妹どちらも企画で当たるなんてとんでもない確率じゃないか。


 一等が当たったり、エリカがBBギアを当てたりと人生の幸運を使い果たしている気分だ。


「届いたら何かゲームするのか?」


「うーん、わかんない。見る方が好きだし。もしよければいる?」


 エリカは俺と同じで昔からゲームが好きだが、最近はストリーマーのゲーム配信を視聴しているのみでプレイはあまりしない。


「俺はもう持ってるし、二つもいらないからなあ。売るとかどうだ?」


「流石に推しに貰ったものをお金に換えるって酷くない?」


「じゃあ友達にあげるとか」


「え、友達に40万円する機械あげたらさすがに引かれない?」


「それもそうか。うーん……」

 

 その後も話し合ったが、届いても未開封で放置することに決まった。


――――――――


 19時55分。


 D・M・Oにログインしてノエルとの約束場所へ向かう。


 彼との待ち合わせ場所はいつもレーヌ中央噴水広場の近くの宿屋前だ。


「おーい、ノエル!」


 ノエルのアバターは160cm位の背丈の銀髪エルフ。エルフということもあり美形でどこか中性的な外見をしている。


「あ、ユキ!」


 ちなみに俺のユーザーネームは【ユキ】。理由は単純で名前が幸成ゆきなりだからだ。


「今日のレベリングどこでする? やっぱりデュララノ海岸でイカ狩り?」


「悪い、ちょっとその前に話したいことがあって」


「話したいこと?」


 ノエルが怪訝な顔で首をかしげる。


「宝くじ、どうだった?」


「僕はダメだった。端から期待していなかったけどね。当たるまでのワクワクを買った的な?」


「俺さ……当たったんだよね」


「え、そうなの。良かったじゃん! ちなみに何等だった?」


「一等。10億ゴールド当たった」


「……冗談でしょ? だってあれ何千万分の一の確率だとか――」


「冗談じゃねぇって! これ!」


 プロフィール画面を表示し、右上を指し示すとノエルは真横から覗き込む。


「一、十、百……十億。え、まじじゃん……。このことほかの誰かに言った?」


「言ってない。ばれたら知らないプレイヤーに付きまとわれそうだし」


「まあそれが正解だよねー。そうだ! そんなにゴールドあるなら装備整えたら? 現バージョンの最強装備整えようよ」


――――――――


 潤沢な資金を持つ俺はノエルと共にバザーへ向かうことにした。


 このゲームでの装備の入手法は主に四つ。

 町のNPCから購入。ストーリーやイベント報酬で入手。自身で素材を収集し鍛冶で作成。バザーで他プレイヤーが作成した物を購入。

 

 NPCから装備品を購入する人は全くと言っていいほどいない。


 それは武器と防具に存在する【プラス値】という仕様のせいだ。


 例えば、NPCから購入できる【ブロンズソード】の攻撃力は+12だが【ブロンズソード+3】の攻撃力は+20といったように性能が異なる。


 さらに、プラス値のついた武器はNPCから購入できず、プレイヤーの鍛冶でしか作成できないのだ。

 

 自分の装備を確認する。


――――――――

右手装備:デビルキラー+1

左手装備:魔除けの盾+1

頭装備:プラチナヘルム+1

胸装備:プラチナアーマー上+1

脚装備:プラチナアーマー下+1

アクセサリー1:戦士の勲章

アクセサリー2:剛力の指輪

アクセサリー3:破魔のペンダント

アクセサリー4:(なし)

アクセサリー5:(なし)

――――――――


 デビルキラーや魔除けの盾、破魔のペンダントは悪魔系モンスターとの戦闘で真価を発揮する。反対に、それ以外の系統のモンスターに対しては普通の装備に過ぎない。新しく購入するなら汎用性の高いものがいい。


「まずは防具からにしよっか! あ、もう新しい装備が出品されてる」


 今回追加された防具の中で戦士が装備可能なものは強戦士の鎧シリーズと魔法の鎧シリーズの二種類。前者はセット装備で攻撃力上昇。後者はセット装備で被魔法ダメージが減少。


「どっちも買えば? 買って損することはなさそうだし」


 どちらを買うか悩んでいるのを察したノエルが提言する。今の俺には十億ゴールドがある。迷う必要なんて全くない。


「それもそっか。とりあえず全部+3で買おうっと。……え、こんなにするのか」


「+3ってだけで通常の十倍するからね。僕もまだ+3は持ってないよ」


 鍛冶で+3の装備を造るのは運要素があるのも相まって十回に一回出来ればいい方だ。そのため値段は高い。


 合計六点の購入で三百万ゴールド。これまでの俺なら手を出せなかったが今の俺には余裕だ。


「次は武器か。片手剣と両手剣、あと槍と盾があるけどどれにする? また全部買う?」


「いいや、これと……これだけ買う」


 俺が指し示したのは片手剣と盾だ。


「あれ、てっきり全種類買うのかと」


「いくら沢山ゴールドあるからって無駄遣いはしないよ。無限にあるわけじゃないし」


「真面目だなあ」


「あのさ、よければノエルの装備、買おうか?」


「え、いいの? 無駄遣いしないって言ったばかりじゃん」


「気にするなって。仲間が強いほうが俺も助かるから」


 それに、ずっと一緒にD・M・Oをプレイして友人となれたことに感謝している。口に出すのは恥ずかしいが。


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


――――――――

 自身の装備を眺める。 

――――――――

右手装備:紫電の剣+3

左手装備:風凪の盾+3

頭装備:強戦士の兜+3

胸装備:強戦士の鎧上+3

脚装備:強戦士の鎧下+3

アクセサリー1:戦士の勲章

アクセサリー2:剛力の指輪

アクセサリー3:破魔のペンダント

アクセサリー4:(なし)

アクセサリー5:(なし)

――――――――

装備欄に+3の装備が五つ。武器と防具だけならトッププレイヤーだ。アクセサリーももっと良い物を揃えたいがアクセサリーは強敵からのドロップのみなので自力で頑張らなければならない。

 

「これ、装備だけならトッププレイヤーじゃない!?」


 ノエルも考えていることは同じだった。


「それじゃあ、レベルもトッププレイヤーに追いつくためにレベリング行こうぜ!」

「おー!」


所持金:9億9400万ゴールド



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