〈未完〉【VRMMO】10億ゴールド当選しました。

来栖シュウ

ダンジョン・モンスターズ・オンラインVer1.3編

1話 一等当選

「それでは皆さん。良い休日をー」

 根岸先生のやる気のない挨拶が一週間の終わりを告げた。 


 金曜日の放課後。


 そこには教室に残って自習をする者や雑談する者。


 彼らを尻目に、俺は早歩きで教室を出る。


 なぜこんなに急いでいるのか。


 ――それは今日がフルダイブMMO【ダンジョン・モンスターズ・オンライン】のアップデート日だからだ。


――――――――

「ただいまー!」


「おかえりー!」


 妹、エリカの声を背に、階段を駆け上がる。


 自室でフルダイブVR機器『BBギア』を起動する。


 BBギア。正式名称は忘れたが、これはおよそ四十万円もする高級品。


 俺は運良く配信者のプレゼント企画に当選したから入手することができたが、高校生には通常手に入れにくい代物だ。

 

 ギアを頭に装着すると、メディカルチェックが開始される。


 ギアが脳や身体の健康状態を読み取り、ダイブ前に人体に異常がないかを確認する。


 チェックを待つこと十数秒。視界の右下に緑色のランプがともる。


 「問題なしっと」


「いざ! バージョン1.3の世界へ! ダアアアアイブ!」


 視界が暗闇に包まれること数秒が経過。


 暗闇は晴れ、レンガ調の建物が連なる街に切り替わる。


 始まりの町レーヌ。


 どのプレイヤーもD・M・Oで最初に訪れることになる大きな街だ。


 武器屋、防具屋、道具屋、宿屋、酒場。初心者から上級者まで一日の活動はこの街からスタートする。


 毎日の討伐任務の受注やアイテムの取引、クランのメンバー募集など。多くのプレイヤーが交流する。


「1.3になったけど、特にこの辺は何も変わってないな」


 ティロリン、と視界の右上のメールアイコンに『3』と赤色の丸がつく。


 一通目は運営からのバージョン1.3の内容。


 予定されていたレベル上限の解放や追加された内容などが簡潔に書かれている。


 二通目は、――ノエルからか。


 ノエル。俺たちのギルド【犬猫の集い】のメンバーで、D・M・Oでは一番最初の、一番仲の良いの仲間だ。


 このゲームでは珍しい高校生でとても話しやすい。


 さて、肝心の内容は――


「20時からレベリングしない?」


 断る理由もないので「おっけー!」と返信を送る。 


 そして3つ目は――、宝くじ?


 そうか、当選発表は今日だったのか。


 正月に販売された一口1000ゴールドの宝くじ。


 一等の当選金はなんと10億ゴールド。これだけあれば全てのジョブの装備を揃えることはもちろん。豪華なギルドハウスの建設、プレイヤーとの交渉にも使えるだろう。


 まあ俺には関係ない。


 というのも、俺は一口しか買っていないので当たるわけがない。


 俺の目的は一口購入すると貰えるアクセサリー、剛力の指輪の入手だったからだ。


 当たる確率は何千万分の一。


 当たるわけがない。


「さーて! 当選番号を確認するかな」


「えっと、俺のくじの番号は5298904か」


 メッセージウィンドウに表示された当選番号と見比べていく。


「まずは6等……ダメか」


「5等……4等もダメか……」


「3等、2等もダメか」


「それじゃ、一等も確認するか。えーと、5298904」


 ん? 再び右手のくじを見る。


 5298904。


 再びウィンドウを見る。


 5298904。

 

 脳内で黄金に輝く「一等 1000000000ゴールド」の文字。


「……あえ?」


  変な声が出た。


 当選番号メールの差出人を確認する。


 運営。誰かのいたずらというわけではなさそうだ。


 ウィンドウを閉じる。


 数秒の深呼吸。


――――


 レーヌの銀行へと向かう。


 NPCが元気よく挨拶をしてくれる。


「あの、これ……」


 震える右手でくじを見せる。


「……! それは!」


 その瞬間。突然床に穴が開く。


「え、ちょ。うわああああ」


 クッションの床に叩きつけられる。


「おめでとうございます!!!」


 王冠を被ったNPCが待ち構えていた。


「こちら、当選金10億ゴールドでございます!」


 ステータスウィンドウが勝手に表示され、所持金に10億ゴールドが追加される。


「え、ちょ、まっ」


「それでは、良き大富豪ライフをー!」


 今度は床がせり上がり、銀行の入り口へ戻される。


 ……どうしよう。誰かに言ってみようかな?


 現実の宝くじは周りに言ってはいけないとか聞くが、この気持ちを誰かに聞いてほしい。


「そうだ、あとでノエルに言ってみようかな……」




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