第5話 王国に行ってみよう!
「……プロメテウス、お前寝相悪すぎな?もうちょいどうにかしろよ」
「うるさい。それなら、カノンのテントに行けばよかっただろ」
夜は開け、朝がやってきた。レジエ、プロメテウス、カノンの三人は今日も歩いている。
「流石にそれはよくないぜプロメテウス。年頃の少女と二人で夜過ごすのはさぁ」
「お?なんだなんだ?……もしやレジエ、カノンに気があるのか?」
「……いや、そういうわけじゃない。てか、俺恋人いるし」
「いるの!?」
「いるの!?」
レジエの発言に、カノンとプロメテウスは同じ反応を見せる。レジエは頭をかき、苦笑いを浮かべた。
「え?そんなに驚くとこ……?」
「嘘だろお前!?そんなチャランポランな性格で彼女できんのかよ!?」
「何だと失礼だな!」
そうこうしているうちに、彼らはやっと草原を抜けた。そうして目の前に現れたのは、巨大な城とそれを取り囲むように建てられた、高い塀の姿だった。
「……ここが、か?」
「ああ。ここが、コール王国の首都であり主要都市。その名も"エデン"だ」
三人は門の方へと移動する。すると、門の前に立つ門番が彼らに気が付き、詰め寄ってきた。その者は肌がウロコで覆われており牙が生えている――
「人間!?……草原の結界を破ってやってくるとは……何奴か!!」
「分かっているだろう門番?あの結界を抜けられるような存在が誰なのか……」
プロメテウスのその一言に、門番は雷に打たれたような反応を示す。そして、腰を90°に折って頭を下げた。
「これは失礼いたしました!!
「……さて、入ろうぜ」
勝手に門を開き、入っていくプロメテウス。二人は急いでその後を追いかけた。
「……プロメテウス、あれはどういうことだ?」
「どういうことも何も。言っただろ?王国は自分たちに味方してくれる
「……つまり、私たちはコール王国側に付くと思われてる。でも、本当の目的はそうじゃないでしょ?」
「ああ」
レジエは小さく頷いた。
「実際に、戦争をしてるジャジー王国とコール王国に行ってみて、事情を調べる。百聞は一見に如かず、だ!」
「……人間っぽいけどそうじゃない……。これが『亜人』……」
カノンは道行く人々を見て、思わず声を漏らした。行き交う人々は皆、ゴブリンやエルフやドワーフやオーガ……。彼女にとって初めて見るものばかりだった。
「…………久しぶりだな、プロメテウス。こちらに付くことをやっと決めたのか?」
そこへ、まるで風に揺れた木々が擦れる音のような、静かな声が響いた。三人が振り返ると、そこには長い黒髪の少女が立っていた。
「……よう、元気そうだな。"
その少女、葛葉シノは紅の目をしていた。髪の内側を赤色に染め、黒っぽいパーカーを着用している。
「プロメテウス、知り合い?」
「……オレがこの世界に来て、最初に闘った相手だ。あの時は痛み分けだったが、ここで決着を――」
「はいはい、ストップストップ」
レジエに抑えられ、暴れるプロメテウス。今のうちに、とカノンはシノに話しかけた。
「私、亜厂カノン。こっちのオレンジ髪は千代野レジエ。よろしくね、シノ」
「…………ああ、よろしく……。それで、王宮には今から行くのか?コール王国に味方するなら、国王の所に行かなくてはならないだろうが」
「ごめん、道案内して貰ってもいい?ちょっと迷ってて――」
「…………分かった。付いてこい」
三人はシノの後を追って歩いていった。
「シノはどうしてコール王国に味方を?」
「…………ちょっとした借りがあっただけだ。むしろ、私はプロメテウスのような男がコール王国に来ることが驚きだがね」
「……レジエっ……離せ」
「だめだよ」
レジエに抑えられつつ、苛立ちを隠せない様子で歩くプロメテウス。四人はやがて王宮の目の前に到着する。独特な雰囲気を醸し出す、不思議な印象の王宮だった。
「それじゃあ、私はこれで。戦場で共に戦えることを楽しみにしている」
シノは三人が王宮へと入っていくのを見届けた後、立ち去って行った。
三人は警護の兵に丁重に案内され、謁見の間へと通される。
「ようこそいらっしゃいました!
国王は、年老いたオーガの男だった。西洋風の服装を身に纏った和風の鬼というのは、なかなか違和感があるものだ。
「俺は千代野レジエだ。……早速聞きたいんだけど、ジャキさん。どうしてコール王国とジャジー王国は戦争をしているんだ?」
不躾な物言いだったが、相手が
「……元々、この世界の民は『ヤオヨロズノカミ』を信仰していました。コール王国も、ジャジー王国も、……そしてスピホール帝国も。しかし、数百年前。『ヤオヨロズノカミ』は突然暴走を始め、人々を襲うようになりまして。……ええ、今では『機神羅刹』――『神羅』、と呼ばれるようになりました」
「……なるほど。神羅は元々はちゃんとした『神さま』だったのか。それが突然暴走し始めた、と」
「はい。それでも信仰を続けたスピホール帝国とは違い、コール王国とジャジー王国は天啓を受けました。それが現在も信仰されている本物の神の教え、通称『カーテン教』でございます」
ジャキは左右に目をやった。そこのありとあらゆる窓には黒いカーテンが取り付けられていた。
「話が見えてこねぇな。つまり、どういうことだ?」
「……あれは数十年前のことです。スピホール帝国との戦争が激化していたある日、ジャジー王国に"救世主"を名乗る人物が現れました。……神の遣いを自称し、奇跡を起こす。その名を、"聖人サカイ"。彼のおかげで、スピホール帝国は滅びましたが、しかし――」
「聖人、サカイ……」
「私たちは焦りました。スピホール帝国が滅びた後、次に滅ぼされるのは我々だと。もしもあの者が本当に聖人であったのならば、我々のコール王国にやってこないことはすなわち、神は我々を見捨てたことになる。……そんなことはありえないと、否定しなければならないのです。あやつが聖人ではないと。ジャジー王国は悪魔に唆された魔国なのだと。それを証明するため、我々はジャジー王国を討ち滅ぼさなければならない」
「……そんな、大袈裟な――むっ!?」
レジエの口はカノンに抑えられた。カノンはプロメテウスに目配せし、意思疎通する。
「……国王、だいたい事情は分かった。宿をくれ。しばらくの寝床が欲しいからな」
「分かりました。すぐに用意させます」
国王の配下に案内され、一級の旅館へと通された三人。ずっと口を抑えられていたレジエは、カノンに物申す。
「何するんだ、カノン!」
「レジエこそ、あの場で何を言おうとしたの?…………宗教の話は部外者にとっては馬鹿らしいことでも、当事者たちにとっては大ごと。かなりデリケートな問題。……はあ、単純で、それでいて複雑だね。戦争を止めるのは簡単じゃない」
「そうだな。くそっ、こういう政治とか宗教の話は嫌いだぜ、全く」
「……そうか。俺の世界じゃあ、神とか天使とか身近だったからなぁ。信仰とか考えたことなかった。そういう難しい問題があるんだな」
事の重大さを理解したレジエは、少し考え込んだ。そして、ある結論に至る。
「それじゃあさ、その"聖人サカイ"っていう人に戦争を止めて貰えばいいんじゃないか?」
「……え?」
「聖人サカイがジャジー王国だけじゃなく、コール王国にも味方すればいいんだ。それなら、争いは止まる」
プロメテウスとカノンは互いに目を見合わせ、戸惑った表情を浮かべたが、すぐに理解を示す。
「……そうだね。聖人サカイの思惑も知りたいし、まずは会ってみるのが最優先かな。ジャジー王国に行かないと」
「コール王国の滞在はこれで終わりかよ。早っ!まだ一日も泊まってないぞ!?」
「……それなら、永遠に留まるといいぜ?墓場の中でナァ」
「!?」
その時突然、どんがらがっしゃん、と。派手な音を立てて旅館の壁が崩れ落ちた。そして、三人の人影が現れる。
「一緒にカードバトルしたかったが、仕方ねぇな。覚悟しろよ」
「ジャジー王国には行かせるなっていう命令でナァ。悪く思うなよ」
「……残念だ」
カードを構えた少年、黒紙イクサ。
恐竜の骸骨仮面を付けた女性、テリジノ・ウムエ。
……そして、葛葉シノがそこに立っていた。
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