第27話 猿裁判! ロリッ子エルフ 番長くりむも登場!

 洞窟をしばらく歩くとやたらと草木が増えてきた。トサカモンキーを含む生態系がこの辺りにできているのだろう。


 連れていかれたのは洞窟の横道の大きな空洞。そこに雑なつくりの小屋が並んでいた。猿とバカにしていたが、普通に人並ひとなみの文明をもっているようだ。


 その中でもいちばんでかい建物の前にある広場。建物はおそらく祭壇さいだんだろう。俺達は祭壇を見上げる場所に連れていかれ、すわらされた。



「今から裁判でも始まるのかな」


「法律のようなものがあるのでしょうか」


「あったら、痴漢であいつの方が捕まりそうだけど。まぁ、もうどの猿かわかんないけどね」


「法律がなければ私刑リンチですか。その場合、猿でない私達が裁かれるでしょうね。ひかえめに言ってひどい目に合わされそうです」


「そっちのパターンか。その場合は逃げようか」


「準備しておきます」



 セバス3は、済ました顔で不穏ふおんなことを告げる。実際、その流れになりそうで嫌なんだけど。やっぱり暴力沙汰か。


 しばらく待つと長老っぽいトサカモンキーが祭壇の上に現れた。髭が長く、トサカと相まってすごいことになっている。



「ききぃ!」


「「「きぃ! きぃ!」」」



 何か裁判らしきものが始まった。しかし、その内容は案の定わからなかった。猿どもは盛り上がっているが、たぶん下品な言葉を発している。


 周囲を見渡すと、やはり相当の数がいる。あのとき戦わなくてよかった。この数を相手にするのはおそらくムリだ。逃げるにしても、どこから逃げればいいのか。


 と、見まわしていたところ、トサカモンキー以外にも気になるものがあった。ガラクタが多い。奈落のゴミ山に似ているが、ここにあるものはおそらく冒険者が置いていったものだろう。剣とか盾とか、荷車とか。


 その中で、鳥かごが目に入った。木に吊り下げられており、中には人の姿。俺達以外にも捕まっている者がいるらしい。


 しかも、子供だ。


 子供の冒険者? この世界の常識はわからないけれど、あんな小さな子供が冒険者をするか? いや、おそらく違うな。あの独特な耳の形状。



「番長?」


「え? パ、パパァァァァァァァア!」



 こちらに気づいて彼女はおりにしがみついて泣き叫んだ。とがった耳、エメラルドの瞳、幼児体型の彼女は人ではなくエルフ。


 ロリっ子エルフ、番長くりむ。


 サイバーフォレストというVtuber団体に属していた彼女は、その独特なロリ声で人気を築いた。番長とはいうが、特にそのような役割を果たしているわけではなく、ただの愛称である。



「何で捕まっているの?」


「わかんないよ~。起きたらお猿さんに囲まれて、それで捕まっちゃったの~」



 何で捕まったんだろう。トサカモンキーが無駄に襲ってくることはないというライリーの話はやはり嘘だったのだろうか。



「パパも捕まっちゃったの?」


「そうなんだ?」


「え~。何したの? お猿さん達、すっごい怒っているけど?」


「まぁ、いろいろあったんだよ」


「男の方は殺せって言っているよ。パパ殺されちゃうの!? 嫌だよ~」


「そうなる前に逃げたいところだけど。……って、くりむ、猿の言っていることわかるの?」


「え? うん、わかるみたい」


「伝えることもできたりする?」


「できるよ」


「おー」



 ラッキーだ。これでコミュニケーションをとることができる。話さえできれば平和的な解決ができるかもしれない。


 俺はくりむに頼んで、こちらに敵意がないことを伝えた。たどたどしいもの言いではあったが、なんとかトサカモンキーに伝わったようで、長老はうむうむと首を縦に振った。そして、代わりにくりむに何かを伝えた。



「えっと、お猿さんが言うには、戦うつもりはない、でも、そっちのつみを許すことはできない、罪をつぐなえば許す、って。パパたち何したの?」



 そちらが破廉恥なことをしたんですの! とライリーが叫んでいるけど、それは無視することにする。ここは仕方がない。交換条件をのむとしよう。



「で、どうしたら罪を許してくれるって?」


「えっとね、女二人にね、子供を一人ずつ産めって」


「おっふ」



 そうきたか。ていうか、猿との間に子供できるの? まぁ、行為自体はできそうだけど。いや、そもそもロリっ子になんてこと言わせるの、エロ猿め。


 そうすると、くりむの方も心配になってくるんだけど、これ聞いていいのかな。



「くりむは、何かされてない? その触られたりとか」


「番長? 番長さんは大丈夫だよ。なんかね、まだ小さいからって言ってた。大きくなったら、って言ってよだれらしていたから、きっと大きくして食べるつもりなんだよ~」


「……、そっか、コワいねー」



 絶対、違う意味だ。よかったー、早くみつけられて。もうちょっと遅かったら、くりむの貞操ていそうが踏みにじられるところだった。


 すべてを聞いていた当人達、うちの女性陣、ライリーとティスは、すーっと表情を消して、ほんと氷河期くるんじゃないかというくらいの冷たい眼差しを猿共に向ける。そして、口をそろえてこう言った。



「「ちょんぎろう」」

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