第28話 エロ猿攻防戦

「待て待て待て待て待て、待って」


「待つ必要があるんですか? このエロ猿共は私に不届きをはたらいた害獣です。さっさと去勢きょせいなさい」


「気持ちはわかるけど。いったん落ち着いて」


「貴様、エロ猿の味方をするんですか? これだから男という生き物は。ハッ、もしかして猿におかされるのを見ると興奮こうふんする性癖せいへきが」


「ねぇよ」



 何だ、その特殊な性癖は。


 怒り狂うライリーの横でめずらしくティスが同調する。



「そうだよ、ぱぴぃ。こいつら、全員、ちょんぎっちゃおうよ」


「何を? いや、やっぱ、言わなくていい」


「ティスは、ぱぴぃの子供しか産みたくない」


「うん、その話はまた今度にしよう。ほら、ライリーが俺のことを猿と同じ目で見ているから。俺のまでちょんぎられちゃうから」



 女性陣のボルテージがマックスである。このままだと戦争になりかねない。ライリーの方は弱いからまだいいけれど、ティスの方は強いから大殺戮だいさつりくになってしまう。


 こういうときは、セバス3に頼ろう。きっと彼ならば何かいい案を思いつくに違いない。そう期待してセバス3に尋ねると、彼はふむとうなずいた。



「お父様が無事ならば、私はどちらでも」



 だめだ、こいつ。


 俺への忠義ちゅうぎあついのはうれしいことだけど、その他に関して興味が薄すぎる。教育する必要があるな。いずれ問題を起こしかねない。


 ここは自分で解決するしかないようだ。俺は、くりむを通して、出産ではなく他のもので代用できないかと、トサカモンキーに頼んでみた。



「だめだって」


「だめか」


「あ、それか、ね、一人で二人産むのはいいって」


「それじゃ意味ないんだよな」



 いや、最悪、ライリーを捨てていくという手も、いやいや、それは最後の手段だ。それにここまで冒険してきた関係性もある。もう他人とは思えない。


 いよいよ暴力的な手段しかなくなってきた。とすると、戦力が不安だな。ティスもセバス3も強いんだけど、多勢に無勢。


 勝てるかどうか。


 そんな物騒な不安にかられていたときだった。俺の視界の中にはいた。無造作に置かれたガラクタ。その中に、いたのだ、そいつは。



「セバス3。ちょっと騒ぎを起こして、僕を自由にしてほしい。危ないけど、お願いしていいかな」


「もちろんです、お父様」



 頷くセバス3。



「ティスもいい?」


「うん、任せてぇ」


「言っておくけどあんまり殺さないでね」


「えー」


「えーって言わない。できれば戦力差を見せつけて降伏こうふくさせたいの」


「はーい」



 というか、おまえシスターだろ。殺戮したがるシスターって何なの?


 よし、あとは騒ぎを起こすだけだ。と、俺が考えていたとき、ライリーのまわりに猿が集まっていた。どうやら刑が執行されようとしているようだ。これはまずいと俺が助け寄ろうとした。が、それより先にライリーが立ち上がり、スカートをひらめかせ、思いっきり猿の股間こかんを蹴り上げた。


 っ! 痛いわー、あれは。


 敵ながら同情してしまう一撃に、猿は悶絶もんぜつして倒れ込んだ。それを見て、周囲の猿が威嚇の声をあげる。


 一方で、ライリーの方は、ぐっと胸を張って声をあげた。



「もう我慢なりませんわ! このエロ猿共! 私を誰だと思っているのですか! アルメネス王が第三王女、ライリー・グレート・ガッシュ・アルメネスですわよ! 猿ごときがれていい身体ではありませんわ! とにかく貴様、降りて来なさい! 私を見下ろすんじゃありません!」



 あ、騒ぎがどうのと考える必要なかった。うちには生粋きっすいのトラブルメイカー、ライリー王女(笑)がいるんだった。放っておけば勝手に騒ぎが起きる。



「こら、触るんじゃありません!」


「きぃ! ききききききぃ!」


「うるさい! いいわけないでしょ! まずは跪いて頭を地面にこすりつけなさい!」


「きっきききぃ! きぃきぃきぃぃぃぃい!」


「知りません! そんな道理が通りますか! その汚いものをこちらに向けたら、踏みつぶしますわよ!」



 すげぇ、猿と喧嘩してる。


 いや、会話が成立しているのかわからないけれど、なんか成り立っている気がする。これが王女のうつわというものなのだろうか。初めて尊敬するわ。


 だが、相手はトサカモンキー、口よりも先に手が出る程度の理性しか持ち合わせていない。ライリーが腕を抑えつけられたところで、セバス3が間に入った。



「た、助けるのが遅いですわ、似非執事えせしつじ!」


「すいません、お父様の命令で、騒ぎが起きるまで待たせてもらいました」


黒髪悪魔くろかみあくまぁぁぁぁあ!」



 いや、俺のせいじゃないでしょ。


 まぁ、いい。ティスに縄を切ってもらい。俺は自由になった身でガラクタのもとへ向かった。


 何の変哲へんてつもないガラクタ。しかも、目の前にあるものは使い道もわからない、この世界の住人には。そう、それは、この世界のものではないからだ。



「お父様! 数が多過ぎます! あまり長くはもちません」



 パーツは一通りそろっている気がする。足りないパーツは、モデリングで造りたいが、さすがに複雑すぎて俺の魔力じゃ無理か。簡易パーツに変えて、後で差し替えるしかない。



「ぱぴぃ! こいつら、もう天に召しちゃっていい!」



 組み立てられるのかわからない。そもそも工具もないし。まずは工具をモデリングで造る、のは、だから魔力が足りないって。でも、なぜだろう、俺には、組み立てられるという不思議な自信があった。



「黒髪ぃ! 私が許します! 全員殺しなさい!」



 手が勝手に動く。目の前で組みあがっていく。それが何か。俺は知っている。最後に一つ、重要なパーツが欠けていることに気づき、俺はモデリングで創造する。



 ぜんまいネジ。



 こいつを背中に差し込む。


 そして、回す。


 すると、それは動き出した。


 動いたことに対する達成感と安心感。そこでふと我にかえり、視界が広がる。目をあげると、すぐそこにトサカモンキーの姿!


 が、その毛むくじゃらな身体は、一瞬にして後ろに弾き飛ばされた。


 は、拳銃をくるりとまわして、ふっと銃口を吹いた。



「安心して。峰撃ちだから」

 

 


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